東京

日本最大の学生街、御茶ノ水界隈へ。【御茶ノ水】

細野晴臣 × 中沢新一「東京天国」

No. 872(2018.06.15発行)
新・珍奇植物
細野さんもかつて通った〈下倉楽器〉は御茶ノ水で昭和12(1937)年に創業、同地に多くの店舗を展開する老舗。
神田神保町は日本一の古書店街。小川町〈かげろう文庫〉はデザイン・写真集・挿画本などの美術書が揃う良店。細野さんは古い映画関係、中沢さんは研究資料の洋書をチェック。
湯島聖堂の孔子廟の前で。もともとは儒学者・林羅山が邸内に設けた孔子廟を移設したもの。
楽器店の店頭に、アナログシンセサイザーの名機ミニモーグとその開発者ロバート・モーグ氏の写真が。
外堀通りと神田川、JR御茶ノ水駅をまたぐ「聖橋」は昭和2(1927)年完成。モダニズムデザインの美しいアーチ橋は、〈分離派建築会〉メンバーとして多くの日本の逓信建築の基礎を築いた建築家・山田守の設計によるもの。両岸に位置する2つの聖堂(湯島聖堂とニコライ堂)を結ぶことから「聖橋」と命名された。
細野晴臣 × 中沢新一「東京天国」
あの2人が、また歩き始めた──。伝説の書『観光』から約30年。かつて街の風景を大きく変えたオリンピックが再びやってくる前に、その姿を見ておくために。「住めば都」の大都市、東京は果たして天国か否か? 音楽家と人類学者の時空を超えたぶらり旅の記録。
日本の学校教育発祥の地、御茶ノ水。
日本最大の学生街、御茶ノ水界隈へ。カルチェ・ラタン闘争と神社巡りの思い出。
中沢新一 細野さん、最近このあたり(神田神保町)によく来てるんですって? どこに行くんですか。
細野晴臣 喫茶店と蕎麦屋かな。本屋は……通り過ぎる(笑)。昔は楽器店だね。そういえば、中学生の頃に最初に手に入れたアコースティックギターも神保町の店で買ったんだ。〈KAY〉というメーカーのもので、当時はそういうB級ブランドのギターがいっぱいあった。あと、御茶ノ水の〈下倉楽器〉。ここは姉の知人がやっていたお店で、時々行ったな。お、まだ場所も変わってないや。
中沢 楽器店とスポーツ用品店は1960年代からありましたよね。僕は高校生の頃、69年の「神田カルチェ・ラタン闘争」の時から見物しに来てますから。激しかったですよ。バリケードを築いた学生が敷石を引き剝がして、機動隊に投げつけてね。
細野 その中にいたの?
中沢 いや、遠巻きに見てただけ(笑)。学生が警察に追われて、線路の上を走って逃げてましたよ。
細野 僕は近寄んなかった、怖いから(笑)。ああいうのは趣味が合わない。
中沢 僕も左翼には馴染めない何かがあるなあ。そういえば、約30年前に2人で『観光』の旅をしていた頃、神社巡りなんかすると、よくいじめられたよね。あいつらはナショナリストだ、宗教だって。「知的な若者は左翼でなければ」というのがまだ残ってたんだよね。僕も一応、知的な方だったはずなんだけど(笑)。
細野 当時としては、神社に注目したりするのは流れに抗していたから。嫌な目にいっぱい遭ったよ。「特集するから」と取材しに来て、出来上がった雑誌を見たら全部、批判的な内容だったり。ひどいよね。とにかく僕らは少数派だった。
中沢 孤独でしたよね。だから細野さんと初めて会った時ピンとくるものがありました。この人は左翼臭がぜんぜんしないぞ、と。あれは確かYMOの「散解」コンサートの時でしたね。
細野 そうだね。中沢くんはまだ学生さんという感じで。あの頃、中沢くんに色んなこと教えてもらったよね。当時はちょうど、フラクタルだったり、新しくて面白いサイエンスがわっと出てきた頃で。そういうものを教えられて、興奮状態だった。
中沢 悪影響を与えた(笑)。
細野 いや、そんなことない。良い影響。ぜんぜん間違ってなかった。音楽的にも色々なものが生まれた。
中沢 細野さんもちょうど転換の時期でしたしね。それまで周りは音楽家ばかりだったわけで。僕も、学問は大好きだったけど学者はあまり好きじゃなかった。そういう意味で、お互い良かったんでしょうね。
細野 そう。2人ともメインストリームにはいたくない人間だったんだ。
中沢 しかし、今や時代は変わりました。今じゃ「神社仏閣でパワースポット巡り」なんて誰もがやってますからね。僕らも大手を振って、湯島聖堂に行きましょう。御茶ノ水巡りは、ここから始めないとね。

HARUOMI HOSONO
1947年東京都生まれ。音楽家。69年にエイプリル・フールでデビュー後、はっぴいえんど、ソロ、ティン・パン・アレー、YMOなどで活動。2017年、2枚組アルバム『Vu Jà Dé (ヴジャデ)』発表。

SHINICHI NAKAZAWA
1950年山梨県生まれ。人類学者。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治大学野生の科学研究所所長。『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)ほか著書多数。近著に『アースダイバー 東京の聖地』(講談社)。

photo/
Yurie Nagashima
text/
Kosuke Ide
edit/
Naoko Yoshida

本記事は雑誌BRUTUS872号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は872号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.872
新・珍奇植物(2018.06.15発行)

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