FUP—ファースト ユニバーサル プレス代表 溪山丈介
活字で組版を作って印刷する活版印刷は、活字を一つずつ拾うところから始まる。“文撰”と呼ばれるこの作業は、長年の実務によって編み出された形式を守る、効率重視の職人の世界だ。
- この工房には、一体どれくらい活字があるんですか?
- 溪山丈介
- 1書体1サイズで、かなカナ漢字だけで7000〜1万2000種ないと本は刷れないといわれます。1本の活字は基本的に1度ずつしか使わないので、同じものが何百、何千本並んでいるというわけです。
- 印刷する活字はどんなふうに拾っていくんですか?
- 溪山
- 片手に原稿、片手に文撰箱という小さな木箱を持って棚の前に立ち、一文字ずつ拾う作業を“文撰”と呼びます。印刷会社によって呼び方などの違いはあるのですが、活字は、一番よく使うグループが袖、続けて大出張、小出張、泥棒、A外字、B外字と6カテゴリーに分かれていて、一番取りやすい場所にひらがな、続いて袖から順に配置されています。
- 活字の配置を体で覚えて拾う、まさに職人の世界ですね。
- 溪山
- 一人前の文撰職人になるには最低2年は必要。新人は後ろに立つベテランから、時折パカンと頭をはたかれながら体で覚えていたそうです。活版印刷が普及していた時代のプロは、1日8〜9時間で1万字を拾っていたとか。僕自身は名刺やハガキ程度でいやんなっちゃうんで、書籍はプロに依頼しているんですが、現役の文撰職人は若い方でも70代後半。伝統芸能かっていう世界なんです。(続く)

たにやま・じょうすけ/1968年生まれ。音楽の仕事などを経て〈内外文字印刷〉に勤める。2013年にFUP|ファーストユニバーサルプレスを設立。書籍の活版印刷を請け負う稀少な存在に。
- photo/
- 角戸菜摘
- text/
- 鳥澤 光
本記事は雑誌BRUTUS872号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は872号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。