人生仕事

大変な時期がないと、ちゃんとした漫画家になれないんですよね。|東海林さだお

TOKYO80s

No. 871(2018.06.01発行)
CAMPとHIKE 頼れる道具
PHOTO / SHINGO WAKAGI

東海林さだお(第三回/全四回)

 4年、5年の間は月に1回、編集部に漫画を持ち込んでいました。いろんな傾向の漫画を描いて、最終的にサトウサンペイさんのようなサラリーマン漫画に落ち着いたんです。でもね、何しろ締め切りがないでしょ。「今日できないから明日でいいや」と、どんどん先延ばしにしちゃって。『週刊漫画TIMES』で連載デビューが決まってからは猛烈な勢いになって、寝る暇もないぐらい。『新漫画文学全集』というのが人気になったんです。それからは忙しい人生というか、『週刊文春』で『タンマ君』が始まって、『女性セブン』『週刊サンケイ』など、5、6本やっていました。アシスタントシステムもない時代だから全部自分でやって。よく耐えしのいだなって。締め切りは守ってましたね。気が小さいんですよ。一つ遅れると連鎖的に全部に影響するから、遅れることができない。描くためのネタの仕入れなんかほとんどできなかった、持ち出しばっかりで。そういう期間に耐え切れなくなって消えていった人って随分いますよ。あの頃は週刊誌が元気で、たくさん出てた時代。谷岡ヤスジも僕のちょっと後にデビューして、彼もすごく忙しくなって。でもそういう大変な時期がないとちゃんとした漫画家になれないんですよね。僕は田舎にいた頃から漫画家になろうと思っていました。親の反対もなかったですね。子供が新幹線の運転手やプロ野球選手になりたいと、単純に思いつくでしょ。あれと同じだったと思うんです。不思議と一回も迷わなかった。ただ、どういう漫画家になろうかと思っていた時間は結構長いんですよ。サラリーマン漫画を出版社に持っていった時に手応えがあってそうなりましたが、何しろ大学中退でしょ。サラリーマンがどういう実態なのかわからないんですよ。電車に乗って大手町あたりに行くとビルがいっぱいあって、夜の7時ぐらいでも明かりがついている。「何をしているんだろう?」って見てました。窓を見ると、みんな動いているんですよね。あらゆる窓の中でね。そんなに仕事ってあるのかなって。でもあるんですよね。何十階というビルに何千人もの人がいて、そのビルが何百個とあって、みーんな仕事をしているわけでしょ。世の中にそんなに仕事があるのかなっていつも思う。今でも思ってますよ。「何をやってるんだろう?」って。課長と平社員のやりとりとかね。もう全部想像ですよ。(続く)

東海林さだお
しょうじ・さだお/漫画家。『あれも食いたい これも食いたい』『タンマ君』ほか連載中。

第1回第2回第3回第4回

photo/
SHINGO WAKAGI
text/
KUNICHI NOMURA
edit/
HITOSHI MATSUO

本記事は雑誌BRUTUS871号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は871号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.871
CAMPとHIKE 頼れる道具(2018.06.01発行)

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