ライフスタイル

「茶の湯の本質は人が人と場を結ぶこと」と若き宗匠は言った。

BRUTUSCOPE

No. 871(2018.06.01発行)
CAMPとHIKE 頼れる道具
木村宗慎

新たな茶の湯ブランド〈茶論〉のブランドディレクター、木村宗慎に聞く「現代の茶の湯」。

東京オリンピックが2年後に迫り、日本を訪れる外国人観光客の勢いに衰える兆しはない。ちょっとワクワクザワザワした市中の気配に押されるように、僕らの気分は何だか「日本」に向かいつつある。そんな絶妙のタイミングで和の総合芸術である茶の湯の新ブランド〈茶論〉を立ち上げた茶人・木村宗慎に、現代の茶の湯について話を聞いた──。

木村宗慎 
茶の湯は今、長らく続いた行儀作法や所作のお稽古事から、現代のライフスタイルにそぐう形での愉しみへと移行する過渡期にあるように思います。その点では可能性は広がっているかもしれません。ただ、僕が気になっているのはご見物が増えているように見えること。展覧会を開けば人が入るし、番組を作れば視聴率は上がるけれど、実際に茶の湯に親しんでいる人は増えていません。これは茶の湯に限らずかもしれませんが、オーディエンスは増えているけれど、プレーヤーは減っているという状況です。
──
それは微妙な感じですね。
宗慎 
「だから面白い」とも言えるんですけどね。一時期のような権威によるがんじがらめではない、茶の湯が本来持っているクリエイティブな側面を愉しめる状況になってきているのは事実です。ただし、ここからどんな切り口で何をするかが、茶の湯の今後にとても重要になってくるんだと思います。まず価値を提示する側がきちんとやらなければならないことは、茶の湯の本質的な愉しさを広く伝えることだと、僕は考えています。
──
本質的な愉しさ……。
宗慎 
お点前の作法や所作を身につけることも大切ですが、それは前提であって本質ではありません。茶の湯の本質は、人が人と膝を突き合わせて場を結ぶこと。茶の湯は言うまでもなく、主が客をもてなす行為ですが、何でもてなすかといえば、自らの美意識や「好き」をプレゼンすることでもてなすわけです。それに対して客も自らの「好き」で応える。いわば自分の私的な部分の晒し合い。茶の湯はそれが許される、いや、むしろ胸襟を開いて晒すことで結ばれる場なんです。
──
それはとても魅力的に聞こえます。
宗慎 
しかも、茶の湯の席はタイムカプセルでもあって、その場に集った人だけではなく、例えばその日の茶碗を過去に所有し大切にしていた人とも時空を超えて「好き」を交わせるわけです。
──
ああ、たしかに。
宗慎 
僕は思うんですが、「お茶」と呼ぶからわからなくなるんです。どうしても、飲み物の文化に聞こえてしまう。でも本質はそこじゃない。最近持てはやされている「おもてなし」にしても、客へのサービスばかりが強調されていますが、その本質はサービスにはありません。サービスはゲストを愉しませ満足させれば十分ですが、「おもてなし」はゲストだけではなく、自分も愉しくなくては十分ではありません。自分にも新たな歓びがあって初めて「おもてなし」になる。
──
なるほど。知っているようでいて、実のところわかっていないのが茶の湯なのかもしれませんね。
宗慎 
その齟齬を解消することはとても難しいんですが、それこそ僕のような立場の人間が担うべき役割だと考えるようにしています。僕は家元の家に生まれたわけでもなく、ただ「茶の湯が好き」一本でここまでやってきた人間です。でも、その身軽さゆえにできることも多い。今回、中川政七商店さんとコラボレーションさせていただいた〈茶論〉も、そういう思いから生まれたものです。
──
茶の湯に興味がある人に、伝えておきたいことがあればお願いします。
宗慎 
茶筅を買ってもらって、とにかく一度、抹茶を点てて誰かに供してみていただきたい。それだけでだいぶ景色が変わるはずです。そこが茶の湯のにじり口であり、ある意味すべてですから。

茶の湯新ブランド〈茶論〉1号店、奈良・元林院にオープン。

「稽古」「喫茶」「見世」、教室・カフェ・ショップを三本柱にした茶の湯の複合空間、〈茶論〉。十三代目中川政七と木村宗慎が中心となって描いた基本コンセプトは「以茶論美(茶をもって美を論ず)」、お茶を一杯飲みながら、美しいと感じることや好きなことを気軽に語らう場。茶の湯にまつわるあれこれを、トータルに引き受ける施設である。木村は言う。「〈茶論〉を組み上げてゆくに当たっては、“カジュアルダウンはするがチープにはしない”“伝統的な様式美の価値に対する素朴な『なぜ』を大事にする”“好きゆえに嵌まりすぎて素直な愉しさを失わない”といったことには気を配りました。ただ場というのは、人々に集っていただいて初めて命を授かるもの。ですから、これから集ってくれる人たちと有機的に編み上げていこうと思います」。9月には早くも2号店が、東京日本橋にオープンする予定である。

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photo/
Yasuyuki Takaki
text/
Kaz Yuzawa

本記事は雑誌BRUTUS871号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は871号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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