音楽・ラジオ

ブルーノ・ノマーズが愛されるのは彼のポップス愛にあり。

西寺郷太のポップ警察〜名曲・珍曲・捜査録〜

No. 870(2018.05.15発行)
新 お金の、答え。
10年代最高のポップアルバム。今年のグラミー賞で最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞に輝いた作品。1980年代〜90年代初頭のブラックミュージックを彷彿とさせるところがニクい。

『24K・マジック』 ブルーノ・マーズ

2010年代の音楽界、最大のポップスター、その名は、ブルーノ・マーズ。今年1月28日に開催された第60回グラミー賞においても主要部門3冠を含む最多6部門を受賞。正直に告白すれば、僕は今回主要部門のいずれかをケンドリック・ラマーが獲得するべきだと思っていました。それは彼が世に放ち続けたアルバム群が、合衆国を覆う「白人対黒人」の衝突を極めて現代的に見つめ直した傑作だったから。アデルやテイラー・スウィフト、ベックなどが「最優秀アルバム賞」を獲得してきた白人優勢のグラミーの歴史の中で、今年こそ「純ヒップホップ」勢に栄冠が渡るべき、という期待がありました。しかし、ポップミュージックを代表する形で登壇したブルーノのスピーチが、そこはかとなく漂う脱力感を一瞬で拭ったんです。ブルーノは自身がハワイ、ホノルル育ちであることや、彼の音楽的バックボーンについて語りました。ブルーノの父はプエルトリコ系と東欧ハンガリー、ウクライナ)ユダヤ系の血を引く、ブルックリン育ちのパーカッショニスト。母はスペイン系とフィリピン系の両親の元に生まれた、フラダンサー兼シンガー。夫婦は観光客向けのバンド演奏とショーを生業としていました。ブルーノは物心つく前から、家族バンドのアイドル的存在として、エルヴィス・プレスリーやマイケルジャクソンのモノマネをステージで披露(週6回)。彼がドラムを叩き、美メロ・バラードをピアノで弾き語り、ヒップホップダンスを踊り、プリンスを追悼しギターソロを弾いたりといった芸達者である理由は、幼い頃から積み重ねた経験にあるのです。ブルーノは「15歳の自分はハワイでバケーションを過ごす、世界中から集まった老若男女に向けて歌っていた」と語りました。そして「だからこそ誰もが口ずさめる曲や、心地よく踊れるダンスミュージックを作ろうと尽力した」と。その音楽好きでもない一般大衆に歌を届けようとする意志こそ、「洋楽離れ」著しい我が国・日本でも彼が愛される理由なのでしょう。先月行われた〈さいたまスーパーアリーナ〉公演、約15万人分のチケットに対し70万人以上の応募が殺到したといいます。

西寺郷太
にしでら・ごうた/音楽プロデューサー、ノーナ・リーヴスのシンガー&ソングライター。サブスクリプションサービスで全楽曲配信開始!

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辛島いづみ

本記事は雑誌BRUTUS870号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は870号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.870
新 お金の、答え。(2018.05.15発行)

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