映画

「“現在進行形の鋤田正義”を見られる映画」と箭内道彦は言った。

BRUTUSCOPE

No. 870(2018.05.15発行)
新 お金の、答え。

レジェンド写真家・鋤田正義を追った『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』公開間近!

鋤田正義 
前に一緒に湖に行ったよね。
箭内道彦 
ええ、福島でやってる『風とロック芋煮会』ですね。プログラムが終わった夜中の1時から「公開PV撮影」というのをやって、そこで鋤田さんにムービーを回してもらったんですよね。
鋤田 
そうそう。
箭内 
僕は、巨匠の無駄遣いじゃないけれど(笑)、巨匠にそういう無茶を頼むのがすごく大切で面白いと思っていて。
鋤田 
いやぁ、楽しかったですよ。ああいう依頼はまずないけどね(笑)。

写真家・鋤田正義とクリエイティブディレクター・箭内道彦。箭内が仕事仲間と組んだインチキバンド(失礼)のアー写をダメ元で鋤田にお願いしたという、ユニークなきっかけから始まった付き合いだけど、公開迫る映画『SUKITA』に出演するほど馬が合う2人でもある。そんな2人だから話せる写真と映画の話。

箭内 
でも、鋤田さんにこの映画についてインタビューするのは難しいですよ。鋤田さんは他薦型。自分でスゴイって言わないから、ほかの人がこうやってドキュメンタリーを作っちゃうわけですから。
鋤田 
これでも若い頃はツッパってたんですけどね。当時、ロック撮る人はツッパってないといけなかったから。
箭内 
言われてみれば若い頃の写真見ると、話しかけづらいかも(笑)。
鋤田 
アハハ。
箭内 
そんな鋤田さんに逢ってみたかった気もするけど、やっぱり甘えさせてくれる鋤田さんと出逢えてよかったです。では映画の話をしましょう。僕は試写で観て、鋤田さんのことが大好きな、鋤田さんを尊敬する国内外のビッグネームたちが淡々と語ってゆく、その感じがとてもよかった。この映画を観たら、鋤田さんに撮ってほしいと思う人がたくさん出てくるだろうし、写真を観たいという声ももっと上がると思う。鋤田さんのレトロスペクティブではなくて“現在進行形の鋤田正義”を見られる映画ですね。
鋤田 
そう言ってもらえるとうれしいね。
箭内 
僕がすごいと思うのは、鋤田さんが今も進化し続けているところ。10年くらい前、解像度のメチャ高い動画を撮れるカメラを鋤田さんが買った時に、「ムービーで撮って最高の表情のところで止めてそれを写真にしたら、一番いい写真になるね」って僕に言ったんですよ。それって、すごく自由な発想じゃないですか。ほとんどの写真家は、いつシャッターを切るかに命を懸けてるわけだから。その一言にホント衝撃を受けました。
鋤田 
いや実は、今もまだ迷ってるんですよ。僕は両方の感覚がわかるから。
箭内 
ムービーからスチールを選んで抜き出そうなんて遊び心を持ってるカメラマン、そうはいませんよ。
鋤田 
僕の中には新しいとかカッコイイという感覚はほとんどないんです。デヴィッド・ボウイの写真あたりはそう見られがちかもしれないけれど、そうじゃない。昔、プラスチックスの佐藤チカちゃんが、「新しいと思った瞬間に古くなる」
というような意味のことを発言していて、それがすごく心に残ってるんです。
箭内 
新しいという感覚は瞬間的に古くなるわけですね。進化し続けている鋤田さんはその一方で、高校生の時に初めて撮ったお母さんの素晴らしい写真を見ると、コレ言うのにスゴく勇気がいるけど……、うまくなってないですよねっ。
鋤田 
アハハ、ありがとう、それはスゴい褒め言葉です。僕はうまさで撮ろうと思ってないですから。
箭内 
うまさで撮ってない……。
鋤田 
もしかするとそれにはボウイの影響があるのかもしれない。彼はイギー・ポップやブライアン・イーノといったカルトヒーローと一緒にやったじゃないですか。彼のそういう姿勢をカッコイイと思ってましたし、僕も日本では新宿ロフトあたりに通ったりしてました。写真がうまくなったと意識してしまうと、そういう自由が利きにくくなるんです。ですから自分を見せようという意識が薄れて、被写体を見ようという意識がどんどん大きくなっていったんですよ。
箭内 
なるほど。今はスマホやSNSがあって、表現したり発信したりすることがすごく身近になったからこそ、逆に技術や道具にこだわらず、被写体を見ることに徹している鋤田さんの写真に、みんな惹かれるのかもしれない。ただ、鋤田さんが撮った写真を知っている人は多いけれど、実際に写真を撮っている鋤田さんを見たことがある人は、ほんの一握り。それを見られることもこの映画の大きな魅力だと思います。鋤田さんが持っている被写体との距離感みたいなものを、ぜひ感じてもらいたいですね。

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
監督:相原裕美/出演:鋤田正義、布袋寅泰、ジム・ジャームッシュ、山本寛斎、永瀬正敏ほか/デヴィッド・ボウイやYMOなど数々のロック界のスーパースターの撮影を手がけた写真家、鋤田正義のドキュメンタリー。鋤田の仕事ぶりを垣間見られる貴重な記録。5月19日、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。http://sukita-movie.com
©2018「SUKITA」パートナーズ

本記事は雑誌BRUTUS870号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は870号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.870
新 お金の、答え。(2018.05.15発行)

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