その他

マッチ箱をくれる人たち

菅原 敏「詩人と暮らし」

No. 869(2018.05.01発行)
居住空間学2018 歴史をつなげる部屋。

マッチ箱をくれる人たち

「私の仕事について
私の歴史について
話す時間が足りない
私にもっと時間をくれ
そんなわけで明日の朝も
一緒に朝食を取ろう」と
モリーゼ州の森の中
水車がまわる四百年前の館を
長い時間をかけてホテルに変えた
オーナーのおじいさんは
私たちの通訳の女性を全力で口説き
お茶目なウインクをして
時速150㎞で車を運転しながら
助手席の彼女の目をじっと覗き込んで話す
素敵な人だった
ひとつ作れば ひとつ失なう
そんなことを考えては
過去ばかり見やる私だったけれど
この街では老いも若きも みんな
情熱という言葉を自然に口にするので
ああ そうだね もう一度
マッチを擦って
小さな種火に薪をくべよう

memo】ワイン、ビール、オリーブオイル、チーズの作り手、コーヒーのロースター、アルベルゴのオーナー、この旅で出会った人たちは皆、仕事への情熱について何度も話してくれた。私のことをPoeta(ポエタ/詩人)と呼ぶあの人たちに、この秋また会いに行こう。(敏)

すがわら・びん/詩人。新詩集『かのひと 超訳 世界恋愛詩集』(東京新聞)発売中。国内外での朗読公演など幅広く活動中。

text/
西野入智紗

本記事は雑誌BRUTUS869号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は869号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.869
居住空間学2018 歴史をつなげる部屋。(2018.05.01発行)

関連記事