建築・インテリア

調和を大切に、静かなトーンでまとめる。

壁を考える。

No. 869(2018.05.01発行)
居住空間学2018 歴史をつなげる部屋。
大熊健郎さんのリビングの壁は、美しいバランスで成り立っている。赤や黄のような強い色を馴染ませるため、乳白色やベージュ、スモーキーグレーを周囲に持ってくる。同じ色味でも質感によって、見え方もまったく違うものになる。小屋やカゴ、立体も壁に飾る。
前ページの対面には、イタリアのルイジ・ギッリの写真。25年前に購入したお気に入り。「1990年頃の作品ですが、“室内”を静物画のように撮影した写真が新鮮で。初めて買った写真集も彼のでした」。壁の中に続く部屋のような印象がユニーク。
壁の一部には、普段使いのバッグやエプロンを掛けて。リュックのアクセントになっているのは女性ユニット〈sunui)の「カンカンバッチ」。手作り作家ものも好き。LAのアーティスト、リッキー・スワロウらの作品集も。アートと日用品が自然に馴染む空間。
リノベーションした際に、リビングの一角に5畳ほどの趣味部屋を造った。アップライトのピアノを配置し、高さを合わせて絵画やポスターを飾る。右の額縁に入った冊子はパリの〈マーグ画廊〉が出版していたリトグラフで刷られた美術雑誌。ジャン・アルプ号。
窓の上にあるサインは仙台のアンティーク店で購入。「フランスの、古いリンゴ販売所の看板」。左にぶら下がっているのは、岡山の名店〈アントニム〉で購入。「オーナー自身も作家活動していて、その作品です」。古くても新しくても、程よく馴染むものが好き。

調和を大切に、静かなトーンでまとめる。

「壁があると、つい隙間を埋めたくなってしまう」

と話すのは〈クラスカギャラリー&ショップ ドー〉のディレクター大熊健郎さん。築50年近い今のヴィンテージマンションに引っ越してきたのは3年ほど前。以前住んでいた家はかなりコンパクトだったが、狭いながらもアートを壁いっぱいに飾り、まるで“敷き詰められた”ような空間はお気に入りだったという。その壁をほぼ再現したのが現在。リビングの一面にある、大きな壁にはフィリップ・ワイズベッカーのドローイングをメインに、古賀充や澄敬一の作品、昔の日本製のスケッチブックやヨーロッパのアンティークの鳥カゴなど、古今東西が入り交じる。今ではアートピースとささやかな日用品を組み合わせて飾るのが楽しいと語る。

 壁を飾るときには、まず一番大きいポスターの位置を決め、そこを起点にグリッドを意識して配置していく。隣との隙間は、色、素材、テイストで決める。

「意識しているのは全体の“調和”。ディスプレイを変えるときに一つだけ入れ替えればいいというわけではないので、そのへんが楽しみでもあり、大変でもありますね」

 たくさんのものに囲まれながら、トーンを揃えることで生まれるハーモニー。マテリアルや色の組み合わせを意識することで、どこか静謐さすら漂う壁になっている。

「ものがたくさんあって一見賑やかだけど、全体的には静かな空間になるよう目指しています」
 絶妙なバランス感覚とさじ加減でディスプレイされた大熊邸。こだわりが存分に詰まった壁は、暮らしを映し出す鏡となっていた。

大熊健郎
おおくま・たけお/現在、CLASKA統括責任者兼ディレクターを務める。クラスカ ギャラリー&ショップ ドー本店で5月27日〜7月1日、フィリップ・ワイズベッカー作品展『Works in Progress』開催。

photo/
Norio Kidera, Masanori Kaneshita
text/
Chizuru Atsuta

本記事は雑誌BRUTUS869号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は869号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.869
居住空間学2018 歴史をつなげる部屋。(2018.05.01発行)

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