ライフスタイル

文化財ではなく、文化として受け継ぐ、明るく軽やかな茅葺きの家。

歴史をつなげる部屋。

No. 869(2018.05.01発行)
居住空間学2018 歴史をつなげる部屋。
4年前に葺き替えたばかりの屋根が美しい十場邸。築68年で茅葺きの家としては比較的新しい。葺き替え作業は地域の若い職人と共に行った。屋根のてっぺん、棟の飾りは根付きの竹で、十場さん自ら掘り出して収めた。
改修後に設けた新たな玄関はモルタル仕上げで、写真左手の階段は屋根裏部屋へと続く。柱や壁は既存のまま。正面の8畳間だけを畳敷きに、ほかはすべて板の間にした。床の布はラオスの古い藍染めのパッチワーク。
土間だった場所をキッチンに改修。広い空間でも暖かく過ごせるよう、杉のフローリングの下に床暖房を入れた。新設した大谷石の壁の前に薪ストーブも設置予定だ。
屋根裏部屋。想像以上に広く、間近に見る太い真竹の骨組みも圧巻。十場さんが集めたアメリカの古いスリップウェアなどが並ぶ。
居間を取り巻く開口部から里山の緑を望む。古い建具はそのままに障子と板戸を季節で入れ替える。
見晴らしのいい庭。最寄り駅まで車で30分、不便ともいえるが、だからこそ、この環境が残った。
母屋の隣にある工房内。元倉庫を改装した。陶芸を始めた頃は電気窯しかなかったが、3年前に薪窯を造り、この夏には穴窯造りにも挑戦する予定だという。
敷地内の仮住まいの家。子供たちが遊ぶ広い縁側は十場さん作。「大抵のことは自分でやる。醤油も味噌も自前。何もないから、暮らしを楽しむしかない(笑)」
工房の裏手には、大阪のショップ〈HS〉と造った茶室〈白泥堂〉が。「陶芸家として茶の湯の茶碗にも挑戦したい。そのためにはまず茶室。何でも自分で体験しないと先には進めない」

葺き替え5年、改修3年。どうしても住みたかった。

 陶芸家の十場天伸さんは、この茅葺きの家で育った。神戸市は淡河町、里山の尾根筋に立つ古民家で、十場さんが中学に上がる頃、庭に両親が新しい家を建ててからは大きな物置のようになっていたという。
 高校で地元を離れ、島根民藝とスリップウェアに出会った十場さんは、10代の半ばで陶芸家になることを決意する。卒業後、京都で技術を学び、独立独歩、さて、どこに窯を築こうかというとき、実家から「茅葺きの家は、潰そうかと思っている」と知らされる。
「もったいないなあって思ったんですよね。郷里に戻るなんて、それまで、考えてもみなかったけど、帰って陶芸するから、あの家は潰さんといて、って頼みました」
 帰郷し、いざ住み始めてはみたものの、茅は傷んでいて雨漏りがするし、風通しが良すぎて、真冬ともなれば、家の中で霜焼けができるくらい寒い。まずは屋根の葺き替えを、そして室内の改修を計画。その「まずは」の茅の葺き替えが大変だった。
「材料が地元では集められず、10トントラック2台分の茅を、熊本の阿蘇まで、住み込みで刈りに行きました。骨組みや下地に使う竹を集めたり、足場を組んだり。この規模の葺き替えを、材料集めからすべて人に頼むと1000万はかかるけど、お金はそんなにかけられないから、できることは全部自分で。5年くらいかかりましたかね。大変だったけど、でも面白かった。陶芸やらないで茅葺きのことばっかりやってました(笑)」
 室内の改修は、3年前に始まり、この春やっと、ひとまずの完成を迎える。田の字形の、土間と畳の、典型的な民家の間取りだった部屋の大半をフローリングにして、床暖房を設置。家族が集うダイニングには薪ストーブも備える予定だ。
「改修中は敷地内にある祖父母の元隠居小屋を仮住まいにしていて、母屋はもうギャラリーにしたらと言う人もいたけれど、やっぱり、住まないと意味がない。僕は茅葺きを文化財としてではなく、文化として残したいんです」
 屋根裏は十場さんが帰郷後真っ先に整えたお気に入りのプライベートルーム。分厚い茅のおかげで雨の音も聞こえないくらい静かだ。家全体で何より気に入っているのは開放感。「天井も高いし、建具を開け放ったときの抜けは格別」と十場さん。そこに重苦しさはまるでなく、里山の緑に浮かぶような軽やかさは新鮮で、心地いい。

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十場天伸
陶芸家

兵庫県神戸市

じゅうば・てんしん
1981年生まれ。2007年から生まれ故郷である神戸市北区淡河町にて〈つくも窯〉をスタート。直火でも使える耐熱のスリップウェアをはじめ、薪窯で焼くソーダ釉のシリーズも人気。子供は10歳の長男を筆頭に育ち盛りの3兄弟と末っ子の娘。妻のあすかさんも陶芸家

photo/
Futoshi Osako
text/
Tami Okano

本記事は雑誌BRUTUS869号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は869号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.869
居住空間学2018 歴史をつなげる部屋。(2018.05.01発行)

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