100000000画素のカメラに写したニューヨークの街角。

BRUTUSCOPE

No. 867(2018.04.02発行)
おいしい魚が食べたくて。
スーツケースを引きながら歩き、マンハッタンやブルックリンなどの交差点を切り取った。
スーツケースを引きながら歩き、マンハッタンやブルックリンなどの交差点を切り取った。
長山一樹 ながやま・かずき/2007年に独立し、メンズ、ウィメンズを問わず、国内外でファッションフォトグラファーとして活動。愛用機はハッセルブラッドで、同メーカーのアンバサダーにも任命される。オーダーメイドのスーツ姿で撮影するダンディな一面も。最近は葉巻の愛好家に。

写真家、長山一樹が初の写真展を開催。数々の偶然と選択から生まれた“全ピン”写真。

 数々の雑誌や広告で活躍するファッションフォトグラファーの長山一樹が初の写真展を開催する。タイトルは、『ON THE CORNER NYC』。昨年11月に仕事を休み2週間渡米、ニューヨークの街角で撮影を行った。このプロジェクトでは、彼の普段のファッション写真とは違う実験的な作品が展示される。撮影方法や作品の意図について本人が語った。
「僕が普段、仕事で撮影するのは主にファッション写真。アプローチは違えど求められる最終的なゴールは同じです。服が写ることが大前提で、そこにイメージ的なものをプラスして美しく見せる。以前から仕事とは違う自由な発想で撮影したらどんなものが撮れるかを試したかったんです。海外の街角でスナップを撮ったりしてたんですが、なんかしっくりこない。写真が自分らしくないというか。ひょんなことから辿り着いたのが今回の超高解像度カメラを使った“ドキュメント写真”。ドキュメント写真は、歴史上たくさんありますが、僕が挑戦したのは、合成写真。例えば、写真家のアンドレアス・グルスキーは、圧倒的な迫力の高解像度ドキュメント写真を撮っていますが、僕が目指したのは、真逆のアプローチ。日本人らしいきめ細かさで作る“フィクションのドキュメント”で、よく見ても合成だと気づかないような写真です」
 一般的に合成写真といえば、空の色を変えたり、違う場所で撮影した被写体を別の写真に合わせたりといったことが連想される。しかし、彼の言う合成写真は、それとは違う“リアル”なもの。
「一見すると、ニューヨークの日常の街角の風景写真でしかないんですが、実は合成という(笑)。さらによく見ると、一枚の中に写る人や物のすべてにピントが合っているんです。手前のタクシーも歩行者もビルの中にいる人も、さらに煙や空を飛ぶ鳥にもピントがきてるんです。撮影方法は単純で、定点で交差点の風景を撮り続けるだけです。ノートパソコンの操作でシャッターを切ることで、歩行者がカメラ目線にならず無意識でいるところを狙っていました。すべてにピントが合うように、シャッタースピードや絞りを選択しながら何枚も撮ります。フォトジェニックな人が入ると面白くなるので、できるだけそういう人が偶然通るのを待ったり、ダンディな紳士が歩いてきた時には、カメラの前を通ってくれることを祈りますね(笑)。ただし、屋外なので、太陽の傾きや光の条件が変わるため、1ヵ所で撮れるのはせいぜい10分。被写体の影の長さが変わってしまうと、合成できなくなるんです」
 撮影の後には膨大な合成作業が待っている。ドキュメントを名乗るからには、合成にもルールがある。
「一枚のメインカットを決め、同じ交差点で撮影したほかの素材から残したい人や物を選んで配置していきます。ただ、あくまでももともと存在していた場所は同じ。歩行者も車も実際そこを通ったという事実を変えることはしたくないので、手前にいた人を奥に移動したり動かすことはしない。その部分の現実は、忠実にすることを心がけました。譬えるなら、わずか数分間の時間のズレを合成するようなイメージ。僕がカメラを置いた位置に偶然通りかかった人が、たまたま画角の中に入ってきて、僕が合成素材として選択したというところに面白さがあると思うんです。人や車がその道を選んだのも、僕の被写体のピックアップもすべてが偶然の選択から起こっているんです」
 今回の写真は、1億画素で撮影できるハッセルブラッドのカメラを使用。長山は普段からハッセルブラッドのカメラを愛用しているが、今回のカメラの画素数は、仕事で使うものの約2倍だ。
「このカメラは、ランドスケープやスティルライフに使うのが主流ですが、僕の場合は、全ピンでの撮影が前提だったし、大きく引き伸ばした時にどのくらいの見え方になるかが楽しみだったので、1億画素という画質にはこだわりましたね。全部で43点の写真のうち20点を1000×825㎜の大きな額装で展示します。ふらっと入れる会場なので意図せず見に来る人も多いと思う。写真を見た人の感想が楽しみだし、聞いてみたい」
 リアルとフィクションの境界線をあなたはどこに見出すのか。ぜひ、意図して会場に足を運んでみてほしい。

『ON THE CORNER NYC』

4月17日~22日、渋谷ヒカリエ8F CUBE 1, 2, 3(東京都渋谷区渋谷2−21−1 8F/http://www.hikarie8.com/cube/)で開催。11時〜20時。無休。入場無料。インスタグラム@kazuki_nagayamaで一部写真を公開中。写真集と写真販売もあり。

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Shigeo Kanno

本記事は雑誌BRUTUS867号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は867号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.867
おいしい魚が食べたくて。(2018.04.02発行)

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