書籍・読書

平山夢明

危険な作家

No. 861(2017.12.15発行)
危険な読書

読後感の悪さは折り紙つき。 鬼畜の所業と殺しの先に光るもの。

 ヅカ石ヘド彦。誤記ではない。ヅカ石は、「元漫才師で今は主にグルメリポーターをやっているオーバーオールのデブ」。小説『反吐が出るよなお前だけれど……』では、「ラーメン屋〈中華コリーダ〉」を、彼がディレクターと取材のための試食に訪れる。もとより店員夫婦もただものではない。「コイカタオオメノブタマシ?」、そして、「どぶどろ? どぶどろのぶろどろ?」「どぶどろましましのどろどろましましぶろぶろ?」と、どこかのラーメン屋で聞いたような言葉で客に尋ねつつ、「ゲス牝」「糞喰い野郎!」と夫婦で罵声を浴びせ合い、臭い豚骨ラーメンを作り上げる。
 2人が出した「ドブゲドロラーメン阿鼻叫喚スペシャル牛頭」を食ったヅカ石が何を言い、何をしたのかは物語にあたってほしいが、このように平山作品では、ユーモアと、生理的な嫌悪感が同居し、互いに互いを強め合う。
 例えば、小説『伝書猫』では、道に落ちたカラスの雛を小学生たちが囲み、傘の先でひっくり返そうとする。すると一人が「なかたしゅーとぉぅ!」と雛を蹴る。「ぺしっと音。濡れた雑巾のように雛が壁に叩き付けられ、落ちると動かなくなった」
 人にあるとされているもの、愛情や常識の外側から、禁忌の刃が鋭く振り下ろされ、我々が前提にして守っていたものが崩れ去る。日常は、フィクションによって軽くひるがえされるものにすぎないのだろうか。
 児童虐待を描いた『無垢の祈り』は、2015年に亀井亨監督により実写映画化された。「もう少し手加減しないと、観て死ぬ人が出るなと思った」と、出演もしている平山夢明は語り、その陰惨さからか、公開範囲は極端に限られたものとなった。平山作品には、残虐さが人の許容量を超え始める瞬間がある。
 小説『他人事』では「崖から転落し、逆さまの車内に閉じこめられ」た夫婦が、近くにいるらしい男に、車外に飛び出した娘の助けを頼む。しかし、男の答えは「俺はあんたらのリモコンじゃないんだ」。この残酷さ。そして冷血なユーモア。娘の体を見た男は言う。「ん? ……あぁ……なんか出てるな……いろいろ。赤とか白とか……輪っかみたいなもの、紐みたいなもの、管みたいなもの……」。破砕したダッシュボードに足を挟まれた夫は、娘を救うため、男にもたらされた金挽鋸で自ら足を骨ごと切断することになるだろう。
 デビュー作から最新作『ヤギより上、猿より下』まで、残酷さの探求を重ねてきた平山作品は、肉体の解体を注視する。最も身近だが、平時には破壊が許されず、内側を容易には覗けない肉体。しかし、生死のきわで、自らの赤々とした断面を露呈させざるを得ないとき、人はどのようなものに変貌するのか。
 漫画家・吉野朔実との対談本『狂気な作家のつくり方』で平山は語る。「人を殺すことによって、たとえば青少年にどんな影響があるのか。それを如実に見てみたい。そういう欲求は僕らの中にある。人を殺したあとに人間ってどうなっちゃうの? 平気なの? 普通でいられるの?」。そのような問いから始めたであろう短編が『枷』(『ミサイルマン』所収)だ。
 優れた二人称小説でもあるこの作品では、「顕現」に出会うために「あなた」が連続殺人を犯す。「顕現」とは、拷問者と「生け贄になるものとが見事に渾然一体化した瞬間」、それも死の瞬間にだけ起こる「はあぷにんぐ」。地鳴りと電球の明滅、破裂。銀食器が震えだし、捻じれ、曲がる。「あなた」は最後に義理の娘を解体する。「まず四肢の先端から破壊していく」という宣言で始まる肉体の破砕と、娘が「顕現」によってもたらす父の崩壊といった、親子の一瞬の交わり。これを、小説『怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男』で、父であるかもしれない男と、拷問の現場でようやく出会えた女に倣って「ロマンス」とでも呼んでみようか。

『暗くて静かでロックな娘』
目と耳が不自由な美女、ロザリンドはナイフ投げ師の父の的。彼女の恋を描く表題作、罵倒し合う夫婦が作る毒ラーメンに、テレビ取材のチャンスが訪れる『反吐が出るよなお前だけれど……』。全10編所収。集英社文庫/660円。

『他人事』
夫婦が引きこもり暴力息子を電動鋸でバラバラにすることを目論む『倅解体』、マニキュアの塗られた小指を飼い猫が外から持って来たことから事件が始まる『伝書猫』。表題作のほか、13編所収。集英社文庫/600円。

『独白するユニバーサル横メルカトル』
凄惨ないじめと虐待を受ける少女が、連続殺人鬼に救いを求める『無垢の祈り』、拷問者の精神崩壊と死にゆく女の肉体の崩壊を描く『怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男』。全8作の短編小説集。光文社文庫/600円。

『ダイナー』
殺し屋専用ダイナーで強制されてウエイトレスとなったオオバカナコが、凶悪な客と、凶暴な店主の間で生き残る道を探す長編エンタメ小説。河合孝典によるマンガ化作品が『週刊ヤングジャンプ』で連載中。ポプラ文庫/740円。

Yumeaki Hirayama

1961年神奈川県生まれ。ホラー作家。96年『SINKER−沈むもの』
小説家デビュー。『ダイナー』で第13回大藪春彦賞、第28回日本冒険小説協会大賞を受賞。実話怪談の編著、テレビ・ラジオ出演も多数。最新刊は、春日武彦との対談集『サイコパス解剖学』。

styling/
Masahiko Taniguchi
hair | make/
Koichi Hara
special thanks/
Hikari Torisawa

本記事は雑誌BRUTUS861号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は861号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.861
危険な読書(2017.12.15発行)

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