映画

若木信吾

告白。私が観なかった 理由。

No. 859(2017.11.15発行)
いまさら観てないとは言えない映画。

ストレートにぶつけられると 照れてしまうんです。

2006年、自身をモデルにした主人公と祖父との交流を描いた映画『星影のワルツ』で長編映画監督デビュー。その後も定期的に映画を撮り続け、現在までに3作品を世に送り出している写真家の若木信吾さん。そんな若木さんに、最近の映画事情について聞いてみた。
「これまでほとんど縁がなかったフィンランドに、ここ最近行く機会が増えたんです。行くとなれば、その国の文化を理解したいと思い、いろいろ調べますよね。文学作品、音楽、アート……。そうなるとやっぱりアキ・カウリスマキが国を代表する文化人なんです。彼の映画を観ずしてフィンランドは語れないということに気がつきました」
 そう語る若木さんだが、実はカウリスマキ作品を一作も観たことがないという。インディーズ映画が好きでよく観るという彼が、カウリスマキを手に取らなかった理由とは?
「もちろんカウリスマキの名前は30年以上前から知っています。新作が公開されるたびに特集されているし、AmazonでDVDを買おうとすると“オススメ”に出てくることもある。でも毎回そこを通り過ぎてしまうんですよ。なぜか考えてみると、初期のカウリスマキ作品である『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』に原因があるんじゃないかと。あのリーゼントにモッズファッションというスタイルが、どうも僕にはしっくりこなかったんですよね。つまり、メインビジュアル一つで“観ない”と決めてしまった(笑)。それだけ印象的だともいえます。ほかにも、バンドやコンサートを描いた音楽映画が得意ではないという理由もあります。僕自身クラシックコンサート以外のライブやフェスに、プライベートでは一回も行ったことがないんです。家でレコードやCDを聴いていたいタイプなので」
 映画を観る時、そのメインビジュアルが与える影響は大きい。“しっくりこない”イメージを乗り越えて、若木さんがカウリスマキ作品を観る日はやってくるのか……。
「やっぱり一回も観ずにフィンランドに通うのはよくないと思って、実は慌ててDVDのBOXセットを買ったんです(笑)。気になるのは新しい作品なので『ル・アーヴルの靴みがき』あたりから観てみようかな。もし好きだったらそこから遡って観ると思います。それでも『レニングラード〜』は観ないかもしれないけど……。新作(12月公開『希望のかなた』)も劇場公開されるみたいだし、いい機会ですよね」

 日本全国、世界各地を飛び回る若木さんの映画タイムは、もっぱら飛行機の中。NYまでなら4〜5本、フィンランドまでなら2〜3本の映画を観るという。必ず観るのはハリウッドのエンターテインメントど直球のもの。
「マーベル映画など、CGをふんだんに使ったヒーローものや、SFなんかも好きで観ますね。自分が監督をする時に、絶対に撮らないジャンルの映画なので、純粋に楽しめるんです。そのほかの映画は、どうしても勉強という視点で観てしまうので……」
 カメラマンである若木さんは、カメラの前にある現実を触りながら、それを物語化して映画を作る。役者とのコミュニケーションなど、リアリティがあってこそ若木さんの映画なのだ。描きたいのは、ズバリ“人間ドラマ”。
「自分で映画を撮るようになったのは、人間ドラマを面白く描きたいという思いからなんです。ジム・ジャームッシュ監督や、ヌーベルバーグの影響も受けているので、映像は実験的で面白く、でも人間の深いところが見えるようなものを撮りたいんです。でもまだまだ力不足だな、と感じることばかりですね」

『男はつらいよ』は 観るのがつらいよ?

「人間ドラマを描きたいと言ってますが、実は僕『男はつらいよ』もちゃんと観たことがありません。あの時代の下町にあまりリアリティを感じられなくて。友人が全巻ボックスを買って喜んでいるのを見ると、“あぁ、僕は東京の人間じゃないんだな”と実感させられます。僕にとっては“観るのがつらい”ですよ(笑)」
 若木さんは、同じ山田洋次監督作品であれば、『家族』『故郷』『遙かなる山の呼び声』の三部作(通称「民子三部作」)が名作だと教えてくれた。
「『家族』は、開拓の仕事のために、列車で九州から北海道へ向かう家族の話です。途中で大阪万博に寄ったり、子供が病気で亡くなったり。その時代のリアルを感じられる名作だと思います。北海道に着いて、大変な冬を乗り越えて春が来たシーン、トラックに乗った倍賞千恵子のすがすがしい表情が素晴らしい。この画の強さ、“映画ってこういうもんだよな”と実感させてくれるんです。ストーリー作りというより、画に説得力がある作品ですね」
 先にこの作品の素晴らしさに出会っていたら、『男はつらいよ』も、違う印象で観ることができたかもなぁ、と若木さんは笑う。
「あっけらかんとした、あからさまな人情ものが苦手なんです。ちょっとねじれていれば好きになれる。ストレートに面と向かって言われると照れちゃうんですよ(笑)。
これは性格ですね。僕は、映画はもちろん、写真でも、言いたいことを伝えるのに、説明的になりすぎるのは違うなと思っていて。観終わった後、何かを考えさせてくれる作品が好きなんです。語らずして伝える。それが作品作りの難しいところでもあり、大切なところだと思っています」

『ル・アーヴルの靴みがき』

'11フィンランド=仏=独/監督:アキ・カウリスマキ/出演:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネンほか/キングレコード/1,
900円(DVD)。

『男はつらいよ』

'69日/監督:山田洋次/出演:渥美清、倍賞千恵子、前田吟、森川信、三崎千恵子、光本幸子、志村喬、津坂匡章ほか/松竹/1,800
円(DVD)。

photo/
Yoko Asakai
text/
Miki Miyahara

本記事は雑誌BRUTUS859号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は859号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.859
いまさら観てないとは言えない映画。(2017.11.15発行)

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