音楽・ラジオ

世界一稼ぐミュージシャンの新たなる第一歩は「脱EDM」。

西寺郷太のポップ警察〜名曲・珍曲・捜査録〜

No. 852(2017.08.01発行)
とんかつ好き。
夏に最高のアルバムです。フランク・オーシャン、ファレル・ウィリアムス、アリアナ・グランデ、ケイティ・ペリー、ニッキー・ミナージュなども参加。買って損しない一枚!

『Funk Wav Bounces Vol.1』カルヴィン・ハリス 

ド派手で機能的なダンス・ミュージック「EDM」が流行して早10年。YouTubeと、スマホの普及で音楽が手軽でパーソナルな存在になったことと反比例するように、巨大なセットやレーザー光線が飛び交う数万人規模の「フェス」が人気を集めるように。世界中で名の知れたトップDJの争奪戦は激化しました。その代表格がスコットランド出身のカルヴィン・ハリス、現在33歳。2014年の推定年収が約80億円の彼も、06年までは海産物の加工場でシャケをさばいたり、スーパーの店員としてアルバイトをしていた垢抜けない青年でした。しかし、「1980年代再評価」を前面に打ち出したポップな曲作りで成功するとともに、髪をブロンドに染め、ジムで肉体改造。196センチの長身も生かし、わずか数年間で急速にセレブ&イケメン化し、テイラー・スウィフトとの交際と破局も話題となるほどのモテ男に。そんなカルヴィンの新作アルバム『Funk Wav Bounces Vol.1』。これまでのアップテンポな四つ打ちビートから、自身によるギター、ベース、キーボードなど生演奏のループを組み合わせたミディアム・テンポのソウル、ファンクへと急激に路線変更。すべての楽曲で自らの使用楽器を事細かに記載していることもポイント。例えばエレクトリック・ピアノには、フェンダー・ローズやウーリッツァーという代表的なヴィンテージの名器があるのですが、調整や維持が大変なんです。なので、ここ10年以上、音楽制作の現場ではPCの技術によって巧妙にシミュレートされた「ソフト・シンセ」でそれらの音を鳴らすのが主流。特に「EDM」の世界的流行の最大の特徴は「PC一台さえあれば、楽器演奏ができなくてもアイデアのみで世界的なヒット曲を作ることができる」という、ある種のパンク・ロック的な面白さもありました。そんなシーンのシンボルでもあったカルヴィンが、昔ながらの楽器を鳴らし「自分で」演奏する制作中の動画をSNSに続々とアップ。スターDJの座に安住せず、伝統に忠実なオーソドックスな手法で新時代の名作を生み出したことは、これからの10年を完全に変えるでしょう。

にしでら・ごうた

音楽プロデューサー。

edit/
辛島いづみ

本記事は雑誌BRUTUS852号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は852号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.852
とんかつ好き。(2017.08.01発行)

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