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一球一球の間は考える時間、それが野球の本質だよ。|野村克也

TOKYO80s

No. 852(2017.08.01発行)
とんかつ好き。
PHOTO / SHINGO WAKAGI

野村克也(最終回/全四回) 

 俺が活躍してた頃は相手のピッチャーがみんなバカに見えた。俺の弱点を知ってるのかなと。相手を錯乱させるには苦手とする球種をガーンとやっつければ弱点じゃなくなる。みんなを騙し騙しだ。長嶋や王みたいに天性に恵まれたわけじゃない。年がいって辞めるのは簡単で、40歳過ぎて続けるのは大変だから、声がかかるうちはどこでもやると決めてた。ロッテにはオーナー重光さんの口聞きで入ったけど、俺はカネやん(金田正一)が嫌いなんだ、代打なんて知らないだろ。走れ走れしかない。ベンチから大きな声で「ぶつかっていけ~」。インコースを逃げると「逃げるな~」。すごい監督だよ。まぁ、良いことも悪いことも学びだけどね。ロッテ1年、西武2年かな。西武の根本監督にも参った。ああいう監督を見てると自信になるわな。俺の方がなんぼかマシだって(笑)。俺には監督の時のヘッドコーチ、ブレイザーがいた。彼のプレーを見たり、大リーグ情報を聞いてたの。彼が口にしたのは、日本の野球は10年も20年も遅れてる、野球の本質を知らなすぎると。メジャーはスピードとパワーでかなわないと思ってたけど、あれだけ体に恵まれた選手が頭を使って野球しているなんて微塵も思わなかった。まさに野球は頭のスポーツだと彼から感じた。1球投げて休憩、こんなスポーツないわな。一球一球の間は次のプレーに備えて考える時間。それが野球の本質だ。それをわかってる人は今は誰もいない。最低でもキャッチャーはそこまで考えないとね。脚本家だから。35歳から兼任で監督をやって評論家に。監督はヤクルト8年、阪神3年、楽天3年か。組織はリーダーの力量以上には伸びないと格言にあるけど、俺は実感したな。どこも金儲けばかり考えてて、「この世界は勝たなきゃ金儲けできない」と言っても誰も聞かない。チームが悪いと監督ばかり替えるけど、そんな時代は50年前に終わった。今は球団の心臓部は編成部、スカウトだと言っても全然聞かない(笑)。機会があればもう一回、監督やりたいよ。好きだからね、野球が。今はろくな野球をしてないよ。野球界、これでいいのかな、と思うね。俺の人生はどんなだったかな、ツイてたな。ツキ以外は何もない。色々叶ったわけで、怖いわ(笑)。もう死を考える年だからね。苦しまずに。苦しむのはやだなぁ。我が人生悔いはなし、そういう終わりにしたいなぁ。(了)

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野村克也
のむら・かつや/1935年生まれ。元プロ野球選手、監督。解説者、評論家

photo/
SHINGO WAKAGI
text/
KUNICHI NOMURA
edit/
HITOSHI MATSUO

本記事は雑誌BRUTUS852号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は852号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.852
とんかつ好き。(2017.08.01発行)

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