エンターテインメント

宗田理『ぼくらの七日間戦争』の瀬川卓蔵

星野概念「登場人物を精神医学で診る 本の診断室」

No. 851(2017.07.15発行)
台湾で見る、買う、食べる、101のこと。

主治医:星野概念

名前:宗田理『ぼくらの七日間戦争』の瀬川卓蔵

病状:あのとき、柿沼のおやじさんがかばんから手を離して、ロビーの方を見た時間は三秒か四秒だ。その間に、わしは隣の電話機のところにいて、同じかばんとすりかえたんだ。

備考:あのとき、柿沼のおやじさんがかばんから手を離して、ロビーの方を見た時間は三秒か四秒だ。その間に、わしは隣の電話機のところにいて、同じかばんとすりかえたんだ。

診断結果:ぼくらの7日間に再来した、70歳の美しき青春。

 大人たちと戦うため、廃工場に“解放区”を作って立て籠もる中学1年生の男子20人。2人のリーダー格のほかに、大工の息子でけんかの達人、料理上手の太っちょ、秀才で策略の名手、暴力教師のしごきで腰を痛めた機械いじりの天才など、映画『オーシャンズ11』か! というくらい魅力的な子供たちが活躍します。彼らは一致団結し、自分たちを型にはめようとする親や教師と戦う中で、彼らよりも前から廃工場に住み着いていて、戦争で4本の指を失ったという70歳の瀬川と仲間になります。70歳といえば心理学者エリクソンが提唱した8期の発達段階「ライフサイクル」
の7つ目、社会・家庭的な基盤が低下して孤独や不安が強まる「老年期」です。確かに、希望の少なさや寂しさから落ち込みがちになる方が多い年代です。しかし、瀬川は中学生たちと戦略を立てたり、実行したりするうちに活力を取り戻していくようです。身代金の入ったかばんをダミーのものと数秒で入れ替える場面なんて、とても70歳とは思えません。これは心理的に発達の低い段階へ戻る「退行」、つまり子供返りをしていたと考えます。「退行」は病気の症状の場合もありますが、それとは異なるお祭り気分のような「退行」は、本人を元気にする要素です。それだけに、7日間が終わって皆が去った後の瀬川の喪失感が心配です。碁盤でも携えて廃工場に出向きたい気分になりました。

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ほしの・がいねん/精神科医。音楽活動もさまざまに行う。いとうせいこうとの共著『ラブという薬』が発売中。

edit/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS851号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は851号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.851
台湾で見る、買う、食べる、101のこと。(2017.07.15発行)

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