音楽・ラジオ

いろんな乗り物に乗り続ける“魔法使い”トッド・ラングレン。

西寺郷太のポップ警察〜名曲・珍曲・捜査録〜

No. 850(2017.06.30発行)
建築を楽しむ教科書
近年はEDMを取り入れるなど変幻自在なトップランナーのトッド・ラングレン。新作は旧来からのファン待望のブルーアイド・ソウルに回帰した作風。

『ホワイト・ナイト』トッド・ラングレン

都会で車を運転していると一方通行や渋滞、駐車場探しなどかえって不便な時も。突然仲間と出会ってもお酒も飲めません。ではずっと「歩き」だけでいいか、というともちろん違う。車に限らず自転車、バス、タクシー。遠い町には新幹線や飛行機。臨機応変にあらゆる交通手段を旅費も含めて選択し、目的地まで快適に行ける。それが「大人の自由」の本質かと。でも、これをミュージシャンの音楽活動に当てはめると、意外に徒歩の人は常に徒歩、車なら車のみ、飛行機なら飛行機と乗り物を固定されてしまうことが多いんです。人気も予算もない人が、小さなライブハウスでしか演奏できないのはわかりますが、一度大会場でコンサートをする立場になったり、一つのパターンで人気が出てしまうとそれを維持するのが課題になってしまうんです。本当は、バンドでも、ソロでも、アコースティックでも、コンピューターを駆使しても、アカペラでも、たった一人の自宅録音でも、大規模ビッグバンドを率いても、インディーズもメジャーも、先ほどの交通手段の例と同じようにそれぞれに利点と魅力があるはず。プロだって普段聴く音楽はバラエティ豊かだし、時代によって好みも変わるはずですから。でも熱狂的な支持者を持つ音楽家ほど素直な路線変更が難しくなるんです。そんな中、1960年代末にバンドNAZZ(ナッズ)でデビューして以降、現在に至るまで、ミュージシャン、プロデューサーとしてリスナーの予想を裏切りながら進化し続ける奇跡の天才が、トッド・ラングレン。1948年生まれ、現在69歳。2年前のフジロック・フェスティバルでは、「きゃりーぱみゅぱみゅ」的と称された奇抜な衣装の女性ダンサーとDJを引き連れ、ノースリーブ姿でダンス! 観客の度肝を抜きました。ドナルド・フェイゲンやジョー・サトリアーニを迎えたゲスト満載の最新作『ホワイト・ナイト』がともかく大傑作。2年ぶり26作目のソロ名義のスタジオアルバムには、タイムレスでジャンルを超越したモダンなトッド・ミュージックが満載。まさに今、堀江貴史さんが流行らせている「多動力」という言葉の音楽界での体現者はトッドかもしれません。

にしでら・ごうた

音楽プロデューサー。ノーナ・リーヴス20周年。ビルボードレコーズ時代のベスト『billboard BEST 2011−2016』発売中。秋にはアルバムも!

edit/
辛島いづみ

本記事は雑誌BRUTUS850号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は850号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.850
建築を楽しむ教科書(2017.06.30発行)

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