エンターテインメント

泣いて、笑って、抱きしめ合って…。外国での映画作りについて、監督と俳優が語る。

BRUTUSCOPE

No. 850(2017.06.30発行)
建築を楽しむ教科書

舞台はフィリピン、製作はイタリア。日本人監督・長谷井宏紀の長編デビュー作が公開。

写真家としても活躍する、長谷井宏紀の長編初監督作品『ブランカとギター弾き』は、日本人監督として初めてヴェネチアビエンナーレ、ヴェネチア国際映画祭の出資を得て製作された。長谷井の映画作りの姿勢において多大な影響を与えたという浅野忠信と、映画にかける情熱について語り合った。

浅野忠信 
普段から宏紀くんとはよく会っていて、この映画を撮る前から話は聞いていたんだよね。だから出来上がりがずっと楽しみだった。この映画は一つの作品として、胸に突き刺さったし、感動して涙が止まらなかった。映画を通して強い感情とか、情熱を感じた気がしたな。
長谷井宏紀
準備段階から、くじけそうになると浅野くんに連絡してました。「どうしたらいいと思う?」って聞くと「楽しめ。喧嘩してもいいから、抱きしめ合って、泣いて笑って作るんだよ」って。その言葉はずっと自分の中で大切にしてきたんです。映画は人と作るものだから、ちゃんと人と向き合って生まれたパワーは、強ければ強いほど、スクリーンから出る力も強い。それが人に届くんだと言われました。
浅野 
この映画からは、その力を本当に感じた気がする。主人公のブランカは、すごく純粋な気持ちでお金を稼いで母親を買おうとするよね。「どうして大人は子供を買うのに、子供は親を買ってはいけないの?」って、そのセリフはまさに子供のピュアな視線。それを、大人の常識っていう変な枠で捉えて、「かわいそう」という言葉で片づけてはいけないんだと思ったよ。
長谷井 
この映画は、これまで僕がフィリピンを旅する中で出会った子供たちと一緒に映画を作りたいという思いで撮った作品なんです。子供の視点から世界を見てみたら、意外と大人って、大切なことをスルーして生きているんじゃないかなって思って。それを描きたかった。
浅野 
それは、僕たちが外国で映画を作るのと同じかもね。常識という枠の中にいたら「日本語通じない人と映画なんて無理」とか、「もっと英語話せるようになってから」っていう小さい物差しで終わっちゃう。でもさ、どんどんやれよ。やっていれば、ブランカがギター弾きのピーターに出会うように、正しい方へ導いてくれる人に出会うんだよ。
長谷井 
本当ですね。映画ってボーダレスなんですよ。僕、タガログ語わからないですが、こういう映画が作れましたし(笑)。映画の最後に、ブランカが泣きながら笑うシーンがあったんです。このシーンは撮影最終日の、最後のシーンで。11歳の少女にはとても難しい演技だし、実際なかなかうまくできなかったんです。どうしようかな、と思っていたら、ADの子が「今日でみんなともお別れだね。みんなに出会えてよかった。楽しかったよ」って語り始めたんです。すると、黙って聞いていたブランカがブワーッと泣きだした。この時、カメラの後ろには撮影クルーが全員集まっていたんですが、誰からともなく歌を歌い始めたんですよ。録音の人も録音やめて歌って踊りだしちゃって(笑)。そうしたら、今度は泣いてたブランカが笑ったんです。それが、最後のシーン。カットがかかった瞬間、みんなでハグして「やった〜いいの撮れたね」って。浅野くんが言ってた、泣いて、笑って、抱きしめ合って作る。まさにそれでした。本当に言葉じゃない、気持ちで繋がったクルーでしたね。
浅野 
それはもう、イコール観客だと思う。現場でスタッフが喜んでない映画なんて、誰も観たいと思わない。現場が涙流して「よかった」と思えたら、それはすごくいい映画なんだよ。
長谷井 
言葉がわからないからこそ、わかろうとするエナジーがあるんだなって。外国で映画を作るって大変だけど、面白い力が生まれますよね。
浅野 
僕も、外国の映画に出るって、最初は面白がってたけど、行ったら大変なんだよね。でも、ストレッチと一緒で、最初は痛くても、毎日やってたら広がるようになる。苦痛があればあるほど、自分の経験値が広がっているって気づくん
だよね。あ、イケるじゃん って。だから、日本という枠の中でつまずいている人を見ると、ストレッチしちゃえばいいのにって思う。
長谷井 
旅をしていろんな人に出会うと、その人の暮らしや生活があって、その中に人の生きざまがあってドラマがあることに気づく。それを見て、自分の感覚が広がるという体験を、映画を通して提供したいんです。だから、この映画もいろんな人に観てもらいたいです。
浅野 
あと、宏紀くんには日本でもぜひ撮ってほしい。海外に行けば行くほど、自分は日本人だなぁって実感するじゃない? その感性で撮った映画、ぜひ観てみたいな。
長谷井 
うん、やってみたい。その時はぜひご一緒したいです!
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長谷井宏紀

はせい・こうき/1975年岡山県生まれ。2009年に短編『GODOG』で、エミール・クストリッツァが主催するイベントのグランプリを受賞。15年には、日本人として初めてヴェネチア映画祭の新人育成プロジェクトに選出され、出資を得て『ブランカとギター弾き』を製作した。

浅野忠信

あさの・ただのぶ/1973年神奈川県生まれ。90年に映画デビューを果たして以来、国内外問わず多くの作品に出演している。今年はマーティン・スコセッシ監督の『沈黙−サイレンス−』に出演し話題となる。8月26日公開の『幼な子われらに生まれ』では主演を務める。

ブランカとギター弾き』

監督:長谷井宏紀/出演:サイデル・ガブテロ、ピーター・ミラリ、ジョマル・ビスヨ、レイモンド・カマチョ/長谷井監督長編初作品は、フィリピンを舞台に、孤児の少女ブランカと、盲目のギター弾きピーターとの旅を描く。7月29日、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。
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photo/
Akiko Mizuno
text/
Miki Miyahara

本記事は雑誌BRUTUS850号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は850号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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