エンターテインメント

エレノア・コッポラ監督が紡いだ、大人の男女のフランス旅。

BRUTUSCOPE(KEY PERSON)

No. 850(2017.06.30発行)
建築を楽しむ教科書

フィクション映画を初監督した想いを作家・柴崎友香に語る。

80代にして、エレノア・コッポラが初めて撮ったフィクション映画『ボンジュール、アン』は、とてもチャーミングな作品。映画プロデューサーの夫と、家庭を支えてきたアン(ダイアン・レイン)が、ある事情で夫の仕事仲間のジャック(アルノー・ヴィアール)と2人、カンヌからパリまで車で移動することに。ところが、人生を謳歌する典型的フランス男性・ジャックのせいで寄り道ばかり。目的地まで最短コースを突進しがちな日本人にとっても発見は多く……。エレノア監督と柴崎友香のクロストーク。

柴崎友香 私はフランスに行ったことはないのですが、紆余曲折の道程の中で、美しいもの、おいしそうなものにもたくさん出会って、アンの人生に触れる場面もあり、映画は90分間なんですが、観終わって、長いから帰ってきたような気持ちになりました。
エレノア・コッポラ 現実生活を離れてフランスの田園風景を楽しんでいただけたらという思いもあったので、その感想はとても嬉しいです。
柴崎 夫のマイケル(アレック・ボールドウィン)は、アンに聞かないと自分の靴下も見つけられないような仕事人間。一方、ジャックは、フランス人らしくグルメでロマンティスト。アンをもてなそうとするけれど、食事中に仕事の電話に出たり、不可解な行動をとったり、矛盾した存在として描かれていますね。
エレノア マイケルもジャックも決して完璧な人間ではないんですよね。そこでアンは、自分の幸せは自分でつかまないと、男に頼っていても仕方がないと悟るんです(笑)。アンは50歳、ちょうど子供が自立する頃で、女性にとっては大きな転機です。ダイアン自身が50代で、実生活もそういう時期だったから、彼女が演じることで深みが増しましたね。アンが娘と電話で話すシーンの声と画像は、実際のダイアンの娘のものなんですよ。
柴崎 そうだったんですか!
エレノア 劇中カンヌでジャックにイチゴを渡す男性は、ソフィアの義理の父だし、最後にアンにチョコレートを渡すホテルのコンシェルジュは『地獄の黙示録』に出てきた女優。衣装のミレーナ・カノネロは、ダイアンが18歳の時に出演した『コットンクラブ』や『ゴッドファーザーPART III』『マリー・アントワネット』の衣装を手がけた人で、個人的にも我が家に関係の深い人なんです。
柴崎 エレノアさんの人生につながっているんですね。私はエレノアさんの著書『ノーツ  コッポラの黙示録』という、『地獄の黙示録』の製作日記を読んで、ここまで困難が次々と起こるのかと衝撃を受けました。数多くの大変な現場を見てきたうえで、ご自分で映画を作ろうとするのは、相当勇気がいることだと思うのですが。
エレノア 『地獄の黙示録』の撮影はあらゆるトラブルに見舞われて、17週の予定だったフィリピンロケは61週までかかってしまいました。私は夫に何度も、「あきらめて、本国に帰りましょう」と言ったのだけれど、フランシスは最後まで聞かなかった。彼はどんな困難にぶつかろうとも、必ず回避する道を見つけて、不可能なことも克服していったんです。私は夫からは、決してあきらめない姿勢を学びましたね。
柴崎 私もこの本を読んで、小説家としても勇気づけられました。
エレノア 『ボンジュール、アン』も、2年前にフランスの女優さんが別のチームで企画を進めかけたのですが、途中で頓挫したんです。でも、あきらめませんでした。
柴崎 信念が大切ですね。アンは劇中で、あらゆるものの細部に焦点を当てた写真をたくさん撮っています。エレノアさんも写真を撮られているんですよね?
エレノア 私もまさにアンのような写真を撮ります。書く文章もそうですが、特別飾り立てずに、シンプルに私の感じたままを切り取りたいと思うんです。
柴崎 写真を見ると、その人が世界をどう捉えているのかがよくわかりますよね。ところで、今作はスタッフがほとんど女性なんですね。
エレノア はい。カメラも衣装もADも女性。とても密な信頼関係を結べました。アメリカでは女性の映画監督は4%しかいないんですよ。フランスは14%。
柴崎 そんなに少ないんですか!
エレノア 男性の監督は自分の信頼できるスタッフを集めるから、男性ばかりに。また、映画製作に投資をする人も男性が多いので、男性の観たい映画に偏ってしまうんです。もっと、業界に女性の声が届くようになればとメガホンをとりました。『ブルータス』は男性読者なの? それならぜひ、恋人や奥さんを連れて、観てくださったら、嬉しいです。
柴崎 会話が盛り上がりそうですよね。

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柴崎友香

しばさき・ともか/1973年大阪府生まれ。99年、短編小説『レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー』でデビュー。20
04年に『きょうのできごと』が映画化。07年『その街の今は』で織田作之助賞大賞ほか受賞。10年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、14年『春の庭』で芥川賞を受賞。近著に『かわうそ堀怪談見習い』。

『ボンジュール、アン』

監督・脚本・製作:エレノア・コッポラ/出演:ダイアン・レイン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウィン/映画プロデューサーの夫マイケル(アレック・ボールドウィン)とカンヌ映画祭にやってきたアン(ダイアン・レイン)。夫の仕事で急遽ブダペストへ飛ぶことになるが、アンの耳の具合が悪く、飛行機に乗れない。そこで、夫の仕事仲間のジャック(アルノー・ヴィアール)の車でパリまで送ってもらうことに。ところがそれは、想定外続きのになる。7月7日、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。http://bonjour-anne.jp
the photographer Eric Caro

photo/
Aya Tokunaga (KiKi)
text/
Tomoko Kurose
special thanks/
星のや東京

本記事は雑誌BRUTUS850号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は850号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.850
建築を楽しむ教科書(2017.06.30発行)

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