エンターテインメント

過去を束ねて川をゆく

菅原 敏「詩人と暮らし」

No. 848(2017.06.01発行)
死ぬまでにこの目で見たい西洋絵画100

過去を束ねて川をゆく

ふたりは
それぞれのそれぞれになるために
見えないふり 気付かないふり
傷はひとつ ふたつ みっつ
増えていくと いつか倒れる
ずしんと倒れた木の下敷きに
なってしまった ふたりの暮らし
足りなかった言葉は
ビーバーの前歯になって
過去の日々をなぎ倒し
二艘のいかだを作るのだから
わたしは みずうみ
あなたは うみに
それぞれのそれぞれになるために
オールのかわりに手のひらを
つめたい水に差し込んで
過去を束ねて川をゆく

memo】ビーバー、和名は海狸。大きく丈夫な歯を持ち、直径15㎝の木をわずか10分で倒せるらしい。数年分の年輪も、バームクーヘンのように一瞬で剥がしてしまう。時間を削る動物たち。ともあれ、嘘のない日々を過ごしていたなら、きっといかだも沈まないはず。釣り糸たらしてサングラス。この夏、私はどこに辿り着くのだろうか。(敏)

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すがわら・びん/詩人。新詩集『かのひと 超訳 世界恋愛詩集』(東京新聞)発売中。国内外での朗読公演など幅広く活動中。

edit/
西野入智紗

本記事は雑誌BRUTUS848号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は848号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.848
死ぬまでにこの目で見たい西洋絵画100(2017.06.01発行)

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