写真

「鮭が森をつくる」@東北。日本の自然を改めて学ぶ。|坂本大三郎

私の中の星野道夫、10人のストーリー。

No. 830(2016.08.16発行)
こんにちは、星野道夫。

『イニュニック』に書かれていた「サケが森をつくる」という北米先住民のことわざが、長く僕の心の片隅に残されていた。アラスカでは川で生まれ海へ下っていた鮭が、秋になると故郷の川を遡上し、それを狙って熊が森の中から現れるという。熊に食べられた鮭は糞となって森に還り、木々の養分になっていくのだろう。
 昨年秋に北海道を訪れ、羅臼の川を遡上する鮭と、それを食べに来る熊の様子を目の当たりにして、遠い世界のようだと思っていた星野道夫の世界が自分たちのすぐ近くにもあるのだと感じた。山形の月山に暮らす僕にとって、熊は身近で愛着のある存在だったが、それ以来鮭にも関心を持って、山形に帰ってきてから鳥海山の麓にある鮭の孵化場に、遡上する鮭の水揚げを手伝いに行った。
 星野道夫はアラスカで遡上する鮭が川を黒々と染める姿を見たと述べていたが、山形でも自然が豊かな地域では同じような光景が広がっていた。気がついていなかったけれども、自分が暮らしているすぐ近くでも「サケが森をつくって」いたのだと、深く感動した。
 水揚げの手伝い賃は鮭1匹と大量のイクラだった。それはできるだけたくさんの人と分けて食べたいと思い、解体した鮭の切り身を山伏の作法にのっとり月山の動物たちにお供えして、それから家族と友人たちで食べた。あまりにもおいしかったので一瞬でなくなった……。おいしいというのは自分が実感できる一番身近な自然の豊かさだと、そう思った。

坂本大三郎

山伏

芸術や芸能の発生や民間信仰、生活における技術について強い関心を持ち、東北を拠点に山伏として活動している。

photo/
Yuriko Kobayash
text/
Keiko Kamijo, Hikari Torisawa, Tsumugi Takahashi
illustration/
Amigo Koike

本記事は雑誌BRUTUS830号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は830号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.830
こんにちは、星野道夫。(2016.08.16発行)

関連記事