アート

写真の内から外へつながる「時間」と「空間」。|森泉岳土

私の中の星野道夫、10人のストーリー。

No. 830(2016.08.16発行)
こんにちは、星野道夫。

 父の書棚で星野道夫さんの写真集を見つけた3年後、高校2年生の夏休みに、父の友人を訪ねてアラスカへ行きました。初の海外、初めての一人旅。16日間でデナリ国立公園、ポーテージ・バレー、バルディーズ、コロンビア・グレイシャーなど夏のアラスカを回りました。初めてなのに、不思議と未知の場所に行くような気がしなかったのは、星野さんの写真を見ていたからだと思います。
 印象に残っているのは、雪原に列をなすカリブーや湖に立つムースなど、広漠とした風景の中に動物が写し取られた写真です。星野さんの写真は、“瞬間を切り取る”というより、その瞬間の前後の時間や、フレームに写っている空間のさらに外側まで含んでいるように感じられて、写真の中にいるような気持ちになれる。自分の周りに星野さんの写真が、まるでバーチャルリアリティのように立ち上がってくるんです。
 僕は、水で絵を描き、そこに墨を流し、爪楊枝や割り箸で絵を描くという手法で作品を作っていますが、水の線の揺らぎやかすれが“隙”を生んでくれるんです。その“隙”に、描かれたもの以上の何かを、星野さんの写真が感じさせるような“時間の流れ”や“コマの外側の空間”まで感じ取ってもらえたら、とても嬉しいです。
 もう一つ、星野さんが教えてくれたのは、旅の喜びです。アラスカへ旅した2年後、大学生になって再びアラスカへ行ったのを皮切りに、大学卒業までの間に15ヵ国以上を旅しました。そして今また、『ハルはめぐりて』という旅の漫画を描くために、世界各地へ旅に出ています。

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森泉岳土

漫画家

2010年「森のマリー」で商業誌デビュー。少女が国内外を一人で旅する『ハルはめぐりて』など、6冊の著書がある。

photo/
Yuriko Kobayash
text/
Keiko Kamijo, Hikari Torisawa, Tsumugi Takahashi
illustration/
Amigo Koike

本記事は雑誌BRUTUS830号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は830号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.830
こんにちは、星野道夫。(2016.08.16発行)

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