アート

動物の感じ方は自由でいい。自分なりの動物像を持つこと。|三沢厚彦

私の中の星野道夫、10人のストーリー。

No. 830(2016.08.16発行)
こんにちは、星野道夫。

 熊は森で一番強い動物でカッコいい、かつ愛らしい。物語や寓話にもよく登場するが、本当の熊の気持ちは誰にもわからないだろう。
 僕は動物モチーフの彫刻を作品としているが、制作の際は実際の動物はあえて見ないようにしている。“動物”をつくっているのではなく、あるリアリティを持った“彫刻”をつくっているから。
 図鑑のデータや写真などの資料を基に、サイズだけは実物に忠実に、その後は自分の中での熊像をつくり上げる。熊は猛獣だ、でも愛らしい面もある。相反する本質だが、それが僕の中の熊のリアリティ。そして完成した作品を設置した時、彫刻となった熊は空間を変化させていく。見る人それぞれが持つ熊のリアリティや時々の感情によって、同じ彫刻でも見え方や感じ方が変わるのだ。
 星野道夫の動物写真を見た時、自分が彫刻で表現したい熊や動物像に通ずる部分があると思った。
 おまえの からだに ふれてみたい/けれども おれと おまえは はなれている/はるかな 星のように 遠く はなれている 
『クマよ』という写真絵本に収められたこの一節が印象的だった。
 母親の背中に仔熊が乗っている一見愛らしい写真だが、周囲への警戒と緊張感が伝わってくる。近づきたくても近づけない、理解したくてもできっこない、そんな人間と熊の距離感をわかって、熊の本質をよく捉えた写真だと思う。
 でも人間は勝手なもので、可愛らしいとか家族愛があるとか、荒々しいとか怖いとか、写真の中の熊に対して勝手に感情を持ち込んで擬人化したイメージを抱く。でも、そんな感情を持つのは鑑賞者の自由で、作者の恣意的な感情はそこにはない。きっと星野さんは人間のこともよくわかっていた。その上で、展示の仕方や写真集への編纂の仕方、さまざまな方法を尽くして、たくさんの熊像を見せてくれたのだろう。

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三沢厚彦

彫刻家

2000年から動物をモチーフとした「ANIMALS」シリーズの制作を開始。毎年新作を携えて全国の美術館を巡回中。

photo/
Yuriko Kobayash
text/
Keiko Kamijo, Hikari Torisawa, Tsumugi Takahashi
illustration/
Amigo Koike

本記事は雑誌BRUTUS830号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は830号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.830
こんにちは、星野道夫。(2016.08.16発行)

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