アート

一枚の写真に込める辺境の“友”への想い。|ヨシダナギ

私の中の星野道夫、10人のストーリー。

No. 830(2016.08.16発行)
こんにちは、星野道夫。

 写真家と呼ばれるようになっても、いわゆる風景写真というものに一切興味を持てずにいた。が、星野道夫の写真を見て、変わった。それは、伝統的なクジラ漁を行う極北の海の民が暮らす村の写真だった。浜辺には巨大なクジラの骨がオブジェのように突き立っている。それは命をくれた生物に対する感謝を込めた墓標。その写真にはコンビニで投げ売られる絶景写真が持たない何かがあった。それは「想い」なのだと思うに至った。その地に暮らす人に会いたい。暮らしを見たい。考えを知りたい。その強烈な想いと体験から得た他民族に対する尊敬の念が、風景の中に刻まれている。
 アフリカ少数民族の写真を撮り始めた時、私もそんな想いに突き動かされていた。が、撮影できたのは、実にお馴染みの光景だった。貧困と病にあえぐ「哀れなアフリカ人」。実際自分の目に映っている彼らはもっとずっと明るく、おしゃれでクールなのに……。どうしてなんだろう?
 数年前、裸族の村で撮影交渉をしていた時、服を脱いでみた。彼らと同じいでたちになり、顔や体を伝統的な色や模様でペイントした。彼らの笑顔が一気に弾け、手を取って踊りの輪に入れてくれた。個性に触れ、内面を知ることで、彼らの魅力をどう写真で伝えればいいか、わかったのだ。
 クジラの墓標を撮影する星野は、きっともう次の旅へと胸を高鳴らせていただろう。辺境の人々に出会い、語り、友となる。辺境を記録する者にとって、それこそが最大の楽しみであり、喜びだから。心底憧れた土地と、そこに暮らす人々への想いを全部込めてシャッターを切った瞬間、一つの旅は終わる。そしてそこからまた、新しい旅が始まっていくのだ。

アートカテゴリの記事をもっと読む

ヨシダナギ

写真家

アフリカ少数民族の村に単身入り撮影を続ける女流写真家作品集エチオピア・スリ族の写真集『SURI COLLECTION』。

photo/
Yuriko Kobayash
text/
Keiko Kamijo, Hikari Torisawa, Tsumugi Takahashi
illustration/
Amigo Koike

本記事は雑誌BRUTUS830号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は830号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.830
こんにちは、星野道夫。(2016.08.16発行)

関連記事