映画

“愛”の国、アイルランドで愛を探す、少年と少女の成長物語。

No. 828(2016.07.15発行)
一流が育つ仕事場。

異なる時代のアイルランドを舞台にした『シング・ストリート 未来へのうた』『ブルックリン』公開。

 1980年代のアイルランドは深刻な不況にあえぎ、西欧で最も貧しい国の一つといわれていた。一方、デュラン・デュランなど隣国イギリスから登場したミュージシャンたちは世界を席捲し、その影響は折しも普及しつつあったミュージックビデオを通じて、アイルランド若者たちに感染していく。『シング・ストリート 未来へのうた』は、そんな80年代アイルランド・ダブリンを舞台にした青春音楽映画だ。14歳の少年コナーは、父の失業によって転校を余儀なくされ、新たな学校に馴染めずにいた。だが美しい年上の少女に一目惚れし、背伸びして彼女を口説いてしまう。「今度、僕たちのバンドのミュージックビデオに出ない?」。バンドどころか、音楽だってちんぷんかんぷんだというのに。慌ててバンドを組んだコナーは、すぐさま音楽の虜になり、音楽には愛を語る力が、そして過酷な現実を乗り越える力があることに気づき始める。音楽を手にした少年が、懸命に希望の片端に手を伸ばす姿は、それが切実なものであるだけにエモーショナルだ。
 50年代アイルランドも貧しく、少なくない人たちが移民として海を渡った。『ブルックリン』の主人公、エイリシュもアイルランドの田舎町からアメリカニューヨークへ渡り、大都会ブルックリンでかつて経験したことのない出来事に遭遇する。何より彼女を強く揺り動かすのは、初めての激しい恋だ。しかし故郷に残した家族の面影は彼女の脳裏をたびたびよぎり、突然の姉の訃報がエイリシュを再びアイルランドへ舞い戻らせる。そして、慣れ親しんだ地での、思いがけないもう一つの恋。アイルランド日本で“愛蘭”の漢字を当てられ、“愛”と略される。これは文字通り“愛”に引き裂かれる可憐な少女の物語だ。

©2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved.

少年はバンドを組み、少女は故郷を離れ、それぞれの未来を切り拓く。

『シング・ストリート 
未来へのうた』

監督:ジョン・カーニー/出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ/『ONCE ダブリンの街角で』の監督による最新作。オリジナル曲と80sのヒット曲が少年の青春劇を彩る。ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開中。

©2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

ブルックリン

監督:ジョン・クローリー/出演:シアーシャ・ローナン/アメリカで新生活を始め、最愛の人と巡り合ったエイリシュ。だが故郷に戻った彼女は、新たな恋に安らぎを覚え……。S・ローナンの繊細な演技が◎。TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開中。

text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS828号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は828号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.828
一流が育つ仕事場。(2016.07.15発行)

関連記事