俳優論。あるいは、なぜ亀岡拓次は役者ではなく俳優と呼ばれるのか?

BRUTUSCOPE

No. 817(2016.02.01発行)
漫画ブルータス

公開中の『俳優 亀岡拓次』について、原作者・戌井昭人と監督・横浜聡子が語り尽くす。

「この俳優、どこかで見たことがあるけど、名前まではわからない……」。映画やドラマを見ていて、そうつぶやいた経験はないだろうか? 亀岡拓次とは、そんなどこにでもいる脇役俳優の一人。彼のうだつの上がらない人生をチャーミングに描いた映画『俳優 亀岡拓次』が公開中だ。そこで原作者戌井昭人と監督の横浜聡子に語り合ってもらった。キーワードは、「俳優とは何か?」。

横浜聡子 ずっと気になっていたんですけど、なぜ『俳優 亀岡拓次』なんですか? "役者"ではなくて。
戌井昭人 役者は威張ってそうじゃないですか? でも、亀岡って堂々としてない。だから、俳優にしたんだと思います。そういえば、この映画にも出演している山㟢努さんに言われました。「役者じゃなくてよかったよ。こいつは俳優だ」って。
横浜 なるほど。それで言うと、亀岡を演じた安田顕さんは、俳優って言葉がぴったりの人でした。
戌井 俺もこの映画にちょっとだけ出演していて、安田さんにはそのときにお会いしたんですけど、すごく顔色が悪かったんですよ。でも、帰り際になったら「お疲れ様でした」
って元気になってるわけ(笑)。
横浜 二日酔いの役作りだったということですよね(笑)。
戌井 でも、だからといって誰も寄せつけない雰囲気を出すわけじゃない。役者だったら「役作りしているから声かけるな」っていう無言の圧力がありそうじゃない? その意味でまさに安田さんは俳優でしたね。彼をキャスティングした決め手ってなんだったんですか?
横浜 色がついてないのがいいなって。カメレオン的というか。そのへんが亀岡に通じるのではないかなと。
戌井 すごく合ってると俺も思いました。劇中で安田さんは何度かおならをしますよね? 原作にはない描写ですけど、彼のアイデアだとか?
横浜 はい。安田さん、自由自在におならを出せるんですよ(笑)。
戌井 そのへんも場面に応じ嘔吐できてしまう亀岡に近いですよね(笑)。
横浜 あと、劇中で亀岡は何度も小便をするんですね。これは私のアイデアなんですけど、亀岡という人物を造形するうえで、「酒を飲む、寝る、小便をする」っていう描写は何度も入れる必要があると思ったから。なんですが、その小便の仕方に関しては完全に安田さんのアイデアです。
戌井 くるぶしまでズボンを下ろすってやつだ(笑)。
横浜 亀岡は子供の頃からあのスタイルを貫いているはずだって(笑)。
戌井 もう一つ原作にはない亀岡の行動で面白いなと思ったのは、彼は劇中で何度もたばこを吸うんだけど、全部もらいたばこですよね? あれには何か意味があるんですか?
横浜 亀岡は世界中の現場を渡り歩いている俳優じゃないですか? そういう人はたばこの銘柄も一つにこだわることなく、色々なものを渡り歩いてるんじゃないかなって。
戌井 なるほど 俳優の話で言うと、さっきも名前が出た、山㟢努さんもやはり役者ではなく俳優。『俳優のノート』って本も書いていますし。やってみてどうでした?
横浜 山㟢さんには古藤という映画監督の役を演じてもらったんですが、意見がとても的確で本当に刺激的でした。例えば、映画の撮影シーンで、当初の予定ではカットをかけた後で、亀岡の演技を褒めるはずだったんですよ。でも、山㟢さんは「ここではまだ何も言わないで謎を残した方がいい」って。なるほどなと思って採用させていただきました。
戌井 山㟢さんが着けていたサングラスや帽子って自前なんでしょ?
横浜 そうなんです。黄色いダウンだけはこちらで用意したんですけど、それも本人たっての希望で。ただ、誰をイメージしているのかはわからずじまいです。
戌井 きっと山㟢さんが仕事をしてきたあらゆる監督のイメージを寄せ集めたんじゃないですか?(笑) いや、でもよくこんな素敵な映画に仕上げてくれましたよね。本当にありがとうございます。
横浜 いえいえ。この原作を映画化したいなって思ったのには明確な理由があったんです。私はこれまでの作品で日常が急に非日常に変わるというシーンを好んで撮ってきたんですが、それはそもそも普通じゃない人がより普通じゃない世界に飛び込むという感じでした。でも、普通の人でそれができればもっと面白くなると思っていたんです。俳優という設定を活かせばそれができるなと。
戌井 確かにこの作品には普通の日常を送っていたはずの亀岡が、ふと気づくと何かしらの役を演じ始めているという描写が何度かありましたね。そういうことだったのか。
横浜 そうなんです。役に入り込んでいる俳優って、きっとああいうふうに日常と非日常がごちゃ混ぜになっているだろうなと思って。
戌井 今回は採用されなかったエピソードも原作にはまだまだあるので、続編も撮ってくださいよ。
横浜 ぜひ、撮りたいです!

戌井昭人

いぬい・あきと/1971年東京都生まれ。俳優、劇作家、小説家。文学座研究所を経て、97年、パフォーマンス集団〈鉄割アルバトロスケット〉を結成。小説家としても活動中。主な仕事に『まずいスープ』『ひっ』『どろにやいと』。

横浜聡子

よこはま・さとこ/1978年青森県生まれ。映画監督。2006年、『ジャーマン+雨』で長編映画デビュー。翌年、CO2シネアスト大阪市長賞を受賞。08年の監督作『ウルトラミラクルラブストーリー』は多くの映画祭で上映された。

『俳優 亀岡拓次』監督:横浜聡子/出演:安田顕、麻生久美子/37歳独身の脇役俳優(仕事をしていないときただの飲んだくれ)である亀岡拓次。彼が全国各地の現場を経巡りながら、ときに恋をしたり、ときに友情を温めたりとゆるーく生きる姿を綴った、ハートウォーミングな人情喜劇。テアトル新宿ほかで全国公開中。©2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

photo/
Ryosuke Iwamoto
text/
Keisuke Kagiwada

本記事は雑誌BRUTUS817号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は817号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.817
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