書籍・読書

ガンダムと大学で学んだSFで現代に斬り込む。|吉上 亮

日本のSFは、どこに行くのか?

No. 815(2015.12.15発行)
夢中の小説。

 僕の「SF的なるもの」の原点は、『ガンダム』シリーズです。5歳の時に『Gガンダム』をリアルで観たのが最初で、小学校4年生の頃に、初代から『∀ガンダム』までのテレビシリーズをレンタルビデオで全話観ました。
 もう一つ大きかったのが、大学で受けた東浩紀さんの講義です。具体的には「小説を書く」「小説を読む」「現代批評を読む」という3つの講義で、特に大きな影響を受けたのがSFを読む授業でした。H・G・ウェルズの『タイム・マシン』から始まって、ビッグ3と称されるアイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインライン、アーサー・C・クラーク、あるいはフィリップ・K・ディックやJ・G・バラード、ウィリアム・ギブスンといった作家たちの作品群を系統立てて読んでいくなかで、「SF小説ってすごい」と思うようになったんです。
 作家業を志した直接的な契機は、大学4年になる2011年に起きた東日本大震災でした。ある種、運が悪いと死んでしまうという世界の残酷さに直面したことをきっかけに、「自分が明日死んだとしても、もし小説を書いていれば生きた証しは残る」という思いに至り、大学を1年間留年して本格的に小説を書く練習を始めたんです。
 まずライトノベルの新人賞に応募したのですが、あっけなく落選しました。その原稿を東さんに読んでもらったところ、「なかなかよかった」と言われたことに励まされ、SF小説に思いっ切り改稿したんです。それを、ご紹介いただいた早川書房の編集者に読んでいただいたのですが、今度は「アマチュアとしては出来がいいけれど、まだプロのレベルではない」と指摘され、そこでもう一度書き直し、「これなら行ける」となったのが、デビュー作の『パンツァークラウン フェイセズ』でした。
 始まりがライトノベルということもあり、『パンツァークラウン 
フェイセズ』はもともと変身ヒーローものだったんです。それを書き直すたびに、その頃興味があったり学んでいたりしたグーグル・フェイスブック的な情報諸技術が足されていったので、オタク的な発想力と情報テクノロジーが入り交じった、いわゆるゼロ年代的な作品に結果としてなっていると思います。SFは現代社会というものを批評的に描くということに一つの役割があるわけですが、得たばかりの知識をどんどん盛り込んでいけるスピード感はSF小説ならではであり、そういった「現代社会への批評」と「スピード感」は“伊藤計劃以後”的な感覚として非常に重要だと考えています。
 伊藤さんは『ファイト・クラブ』
がお好きだったようですが、あの映画でブラッド・ピット演じるタイラー・ダーデンが目指した“既存秩序の破壊”というテーマを、伊藤さんは『ハーモニー』において、ディストピア的な社会における負け組たちの反抗、つまりは、「みんなが幸せな社会でも、そこに不満を覚えて転落していく人間が現れ社会を攻撃してきた時、彼らとどう向き合うのか」と変奏して描きました。その問題意識は、今まさに「イスラム国(IS)」によるテロとして現実世界に顕在化しています。
 SF作家はこの問題に対し、“ファーストコンタクトもの”のごとくいかに彼らと対話できるかを目指すポリティカル路線か、なぜテロリストになるのかという感情部分を突き詰めていくピカレスク的な路線で、それぞれのSF小説が描けると思います。僕自身は後者の視点で現代社会に向き合おうと、心を決めています。

吉上亮が選んだ3冊。

テロの時代においてSF小説が果たす役割は?

『ヨハネスブルグの天使たち』 宮内悠介

『シュピーゲル』シリーズ 冲方 丁

『ニルヤの島』 柴田勝家

“ポスト伊藤計劃”世代と呼ばれる僕らの誰かが次の伊藤計劃になるというより、僕らの奮闘の末に伊藤さん的な存在が出てくるのではと思っています。だから僕らは書き続けなければなりませんが、現時点で避けては通れないテーマの一つが「テロ」だと思います。宮内さんの仕事は目を見張るものがありますし、冲方さんのこのシリーズは、ラノベという抽象化を経て、テロ発生の根源まで迫っています。民俗学から「人類」を描く柴田さんも注目です。

吉上 亮

1989年埼玉県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。著書に『パンツァークラウン フェイセズ』(全3巻)、『PSYCHO-PASS ASYLUM』『PSYCHO-PASS GENESIS』など。

本記事は雑誌BRUTUS815号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は815号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.815
夢中の小説。(2015.12.15発行)

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