丹後半島の西側、久美浜湾を見下ろす隠れ家ホテル。
神戸に本店を置くライフスタイルショップ〈Bshop〉系列の〈ホテル・ホリデーホーム〉は、京都市内から車で3時間ほどの久美浜にある。京都縦貫自動車道をひたすら日本海に向かい、久美浜に聳える“かぶと山”を目指せば、ホテルはそのかぶと山公園内にある。山の麓、雑木林に包まれるホテルはまさに隠れ家だ。敷地全体がすがすがしい空気に包まれ、木々の合間から見通せる久美浜湾、花の咲く庭園など、自然との一体感が心地いいロケーションである。
丹後半島の西側に位置する久美浜湾は、実は、日本海に広がる潟湖であり、海の影響をほとんど受けない湾のために波がほとんどなく、鏡のような神秘的で穏やかな水面だ。半島、山、潟湖……、風光明媚なこの地は山陰海岸国立公園に含まれている。この自然豊かなロケーションに、2014年5月12日、〈ホテル・ホリデーホーム〉がリニューアルオープンを迎えた。コンセプトは、自宅や別荘のごとく“暮らすように泊まる”と掲げている。
現在、約6000坪もの広大な敷地を有し、宿泊棟として4棟6室の離れが点在している。手入れの行き届いた庭園内には、そのほかにレセプションとレストランが一体になったメイン棟、〈Bshop久美浜店〉、丹波篠山で人気の蕎麦店〈ろあん久美浜店〉がある。6室の客室はどれも内装デザインが異なり、リゾートらしいスペースはなにげない雰囲気の内装で誰かの住まいのようだ。ライフスタイルの中にある普通のシーンのように、ホテルであるより“HOME”でありたいとの熱い想いが名前に込められている。
穏やかな海と山、豊富な食材、田舎の魅力をもっと知ってほしい。
〈ホテル・ホリデーホーム〉は海外の洋服や雑貨を扱う輸入卸の親会社の、今は亡き森省三前会長の想いからスタートしている。当時からこのホテルを担当し、現在は現場の責任者として休む間もなく活動を続け、前会長の意志を継ぐ須田悦子さんはこう述べる。
「親会社の株式会社ボーイズは、衣料雑貨の輸入卸業で、ヨーロッパブランドを扱っていたこともあり、前会長も私も、ヨーロッパでは本社機能が郊外に多くあるのも珍しくないと知っていました」
ヨーロッパでは、レストランやホテルの名店には、どんなに不便な田舎へもわざわざ出かけていくが、日本ではまだその文化が理解されず、不便さや何もないことに存在価値が薄い。
「でも“物流”なら郊外でも利点があるとひらめき、久美浜湾の俯瞰写真を見た前会長は美しさに感動し、この地を即決。物流倉庫を久美浜に建てたことからストーリーが始まりました」
倉庫の従業員にもシーズンごとの労働ではなく通年の仕事をしてほしいと願い、閑散期には彼らにコーヒーの淹れ方、ケーキの作り方などを習得してもらった。これが、レストラン〈レセプション・ガーデン〉の始まりとなったという。そして他店舗に品揃えでは引けをとらない〈Bshop久美浜店〉もオープン。昨年にはホテルのリニューアルを終え、今の姿がある。
「働く人が幸せなのが、ホテルの“もてなし”の基本でしょう。BShopの持つマインドは“everyday classic”。双方とも、まさに奇を衒わずに良質のものを提供し、ライフスタイルがより豊かになればと願っています。ホテルにもまったく同じ想いがあります。日常着を着て、自分たちの暮らしを表現できるホテルでありたい。それを“ホーム”という名に込めたのです」
住まいのように造られたホテル客室内には上質なアメニティの数々や、こだわって選ばれた調度品がある。“暮らすように泊まる”ホテルの理想への道は現在進行形だ。
世界ジオパーク認定の地域で大自然を慈しむライフスタイル。
敷地内にはひときわ目立つ石造りの家がある。デラックス・スイートの客室に隣接するその家は現在オフィスとして使われている。野趣溢れるこの石の家周辺は、不思議なほどに別世界のような情景だ。建物の外壁、屋根となる石は英国コッツウォルズに出向いて買い求め、この地に自らの手により移築したというこだわりの館であり、造り手の情熱が込められたホテルのアイコンとなる存在なのだ。
一方、ゲスト用の6室はすべてシンプルモダンなインテリアで、その落ち着いた雰囲気は使い勝手もいい。現在、アメニティとして置かれるゲスト用のオリジナルパジャマはヴィンテージの生地製で貴重品だ。またシーツやピローカバーは綿麻混紡、デュベカバーは麻100%。綿麻混紡のタオル、ベッドカバー、カーテンもすべてベルギー産リネンのブランド〈リベコホーム〉を使用。バス用品には〈イソップ〉、その傍らには自然派で世界的人気のマルセイユ石鹸が置かれている。センスのよい客室内も、レストラン〈レセプション・ガーデン〉で供されるナチュラルフードも手作り感に溢れて温かい。
また見逃せないのは、敷地内に立つ真新しい一軒家の蕎麦店〈ろあん久美浜店〉だ。ミシュラン1ツ星の丹波篠山〈ろあん松田〉の2号店となり、店主の松田文武さんは、縁あってここに移住した。「最高の環境で肩の力を抜いて仕事ができ、おいしい蕎麦が打てる。篠山の店は蕎麦のコース仕立てのみのメニュー構成だが、ここでは盛り蕎麦1枚からでも、リーズナブルに味わってほしい」という。
自然環境、豊富な食材、厳選された日用品、このホテルには造り手の一途なこだわりが随所に見え隠れしている。
HOTEL HOLIDAY HOME

須田悦子
ホテル部門の環境整備を担当。元ジャーナリスト。森前会長とともにホテル建設。“ホテルは人なり”が礎に。写真はイギリス・コッツウォルズ産のハニーストーンで造られた現在の事務所。
- photo/
- Satoshi Nagare
- text/
- Kyoko Sekine
- edit/
- Rie Nishikawa
本記事は雑誌BRUTUS806号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は806号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。