ライフスタイル

武邑先生、「いい情報」って何ですか?

No. 801(2015.05.15発行)
真似のできない仕事術

日本各地の大学で教鞭をとり、高城剛や水口哲也といったデジタルカルチャーの先端を走るクリエイターを教え子に抱える武邑光裕。35年間メディア研究を続ける先生に聞いた、ネットが当たり前の時代の、情報の集め方とは?

NYのクラブが、情報の交差点だった。

 1980年代はほとんどニューヨークにいて、毎晩クラブ巡りをしていました。そこで出会う人とのネットワークを得たことが、昔も今も僕にとっての情報の原点。いろんな国から集まったいろんな人とクラブを媒介につながりができて、新しい情報を手にする。今も情報交換を続ける友人が何人もいます。
 80年代後半、芝浦にニューヨークにあったようなクラブを作る話があり、〈ゴールド〉ができて。人のネットワークを作るというコンセプトで僕がオーガナイズしたのが『エコナイト』というパーティ。1回目はソニー創業者の盛田昭夫さんの誕生会を兼ねて開催。時代を動かす人々が集った場所が〈ゴールド〉で、集積する情報のうねりを肌で感じました。
「どうやって情報を集めればよいか」とよく聞かれます。インターネットによって、情報収集が簡単になったけど、情報の基本は人。人とつながることで、選りすぐられた情報に出会えることに変わりはありません。その意味では、年に1度しか会えなかった人とも、スカイプを使って簡単に話せるようになりました。情報的には音声通話と変わらないけど、顔を見てライブ感覚をシェアできるのがスカイプというメディアのすごさ。クラブに集まる状況がいつでも再現できるようになっています。

いい情報には、色気が漂っている。

 僕は「どんな情報がいい情報か?」と尋ねられると「色気があること」と答えます。ニュースサイトでも、見出しに気になる要素や興味がないと読み飛ばして、クリックすらしないですよね。これはデジタルでもアナログでも同じこと。あらゆる情報には直感に基づく判断基準があって、色気を感じ取れるかどうかが、手にする情報の良し悪しにつながっています。
 情報の色気を感じ取るには感度が欠かせなくて、いくらクラブに行ったところで、感度が高まっていなければ、欲する情報は手に入りません。人は受信装置。求める人だけに、不思議とピタッと入ってくるのが情報で、感度を高めるというのは、自分が何を求めているかはっきりさせることですね。
 僕はニューヨークの〈センター・フォー・ザ・スタディ・オブ・デジタルライフ〉という団体のメンバーで、そこでやりとりする情報は、一定の確度やコンテクストがあって、どれも色気が漂っています。こうしたクローズドなコミュニティも情報収集に有効で、友達がメールしてくれる情報は、デジタルでも妙に実在感があって、色気もある。あらゆる情報がオープンでコモンズになりつつある時代だからこそ、共有できないとか、アクセスできないとか、意識的に閉じていく情報に色気を感じています。

街もインターネットも一緒。情報“航行”を続けなさい。

 都市は人と情報が必然的に集まる場所。量が多い分、自分の足で航行しないと情報の質を精査できません。クラブも行き帰りにも面白い発見があるように、ネット空間も基本は同じ。航行しないと見つけられない、埋もれた情報がたくさんあります。
 自分にとって有益な情報に届いていない、掴めていないと感じるなら、情報の見方を変えましょう。人が見れば「なにこれ?」となる情報でも、「自分には有益かも」という感覚を常にキープしなが
ら、情報を探し歩くことです。
 ネットを使えば誰もが検索できますが、その検索も、検索したい言葉がわかっていないと不可能ですよね。だから、現実世界は、ネットで検索する言葉を探すための場所と考えて、自分が知りたい情報を、まずは外に出て探すこと。あらゆる情報がネット上に存在しているけど、そもそもどんな情報を手にしたいかは、FacebookTwitterでは見つからなくて、自分の興味の中に見出す必要がありますから。
 航行し続ければ思いもよらない出会いがあって、航行が情報を掴み取る力を育てます。今、情報収集は、プッシュ型ではなくプル型の時代。情報は押し寄せるものではなくて、自らフィルターをかけて、取捨選択やエディットして引っ張る時代です。

情報が溢れる時代の、新しいスキルは遮断術。

 インターネットで情報量が飛躍的に増えた今、不要な情報はどんどん遮断するべき。ネットの普及によって、情報発信できる人口は27億人といわれ、表現疲れや受信疲れといった現象も起きています。
 情報のデジタル化の本質は離散性で、塊だった情報が断片化します。音楽は、10曲入りのCDから1曲ずつデータで売買され、長い文章は140文字のつぶやきに置き換わりました。その分、即時性が高まって、チャットのように、一度にやりとりする量は減ったけど、回数は多くなった。デジタルによる断片化で、情報の量的拡大が起きたことが“疲れ”の一因でしょう。
 不要な情報を遮断して必要な情報をキープしておくために、僕がいつも使っているのが、ボーズのノイズキャンセリングイヤホン。スマホ1台で情報収集できる今、ツールの役割は、情報から身を守ることに変わっています。
 情報の受信感度を上げて、質の高い情報に巡り合う。情報の入力を意識的に遮り、積極的に出歩いてフィルタリングしないと、本当に必要な情報が埋もれてしまうのです。

最後は情報のリセット。引っ越しを始めよう。

 情報には、暮らす場所によって得られ、集積されるものがあります。だから僕は、拠点を移すことで情報のリセットを繰り返してきました。1995年京都に行ったのは、ネットがあればどこでも仕事ができると実証したかったのと、日本の伝統的な文化や美学を学びたかったっていうのも大きかった。その後、東京に戻った後、札幌に大学を作るっていう話があり、札幌市立大学に行きました。知らない人に囲まれた知らない土地に身を移せば、情報源がリセットされて、新しい情報とつながりやすくなる。情報感度が先鋭化するんです。札幌に10年も暮らしたので、そろそろリセットしようと、4月からベルリンに移住しました。
 ベルリンは、スタートアップのヨーロッパ最大の拠点。Googleがスタートアップキャンパス〈Factory〉を作って、SoundCloudも本社を移したし、21世紀のルネサンスが起きようとしています。新しい情報が集まる都市は、安いレストランや住居、人が集まるカフェや公園、便利な交通があって、生活の質が担保された場所。今、ベルリンに世界中から若い人が続々と集まっていて、新しい情報の拠点になっている。
 移住するにはある程度覚悟が必要だけど、引っ越すだけでも確実に前に行けますよ。どの荷物を持っていくか、情報の取捨選択を迫られますから。同じ場所に住み続けていると情報の整理ができないまま、情報の渦の中で溺れてしまう。だから定期的にリセットする。
 引っ越し先は近くてもいいけど、広い家はもうダメですね。空間が広いと溜まるものが多くて、今はコンパクトに、身軽に動けることが重要。いい情報を手にするには、時代に合わせて、自分の生活を変革していく必要があります。

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武邑光裕

1954年東京都生まれ。メディア美学者。武邑塾主幹。日本大学藝術学部文芸学科卒業後、同学部専任講師。京都造形芸術大学助教授、東京大学大学院助教授、札幌市立大学教授を歴任。2015年4月、ベルリンに拠点を移す。

photo/
Masatoshi Hamanoi
text/
Junya Hirokawa

本記事は雑誌BRUTUS801号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は801号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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