「おーい、誰か向こうに連れてってくれないか」

戌井昭人『沓が行く。』

No. 797(2015.03.16発行)
あなたにふさわしいモード。

 労働に疲れた私は、どこか違う場所に行きたくなった。そこで、舟の上で海老を釣りながら、光り輝く向こうの岸へ渡ることにした。釣った海老は酒場に持ち込んで、素揚げにしてもらい、他のお客さんに振る舞うつもりだ。街灯の下に立っている、かわい子ちゃんに声をかけ、彼女にも海老を分けてあげるのだ。しかしながら、船頭が便所へ行ったきり、かれこれ一時間も戻ってこない。このままじゃ夜があけちまうぜ。

いぬい・あきと/〈鉄割アルバトロスケット〉主宰。小説に『どろにやいと』(講談社)、『すっぽん心中』(新潮社)など。第40回川端康成賞受賞。

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No.797
あなたにふさわしいモード。(2015.03.16発行)

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