2つの衝撃作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『セッション』公開。
なんて驚異的な作品だろう、本年度アカデミー作品賞ほか、最多4部門を制覇した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は。アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督が『ゼロ・グラビティ』の撮影監督、エマニュエル・ルベツキと作り上げた、全編ワンカットと見紛う圧巻の映像。初めから終わりまで切れ目のないショットを作り出すため、動きもタイミングも寸分の狂いなく組み立てられた、芝居のアンサンブル。かと思えば、ヒーロー映画の人気者だった元スターが、どん底から再起を狙うという筋立ては、主人公に扮したマイケル・キートン自身の、『バットマン』以降に辿ったキャリアを投影して生々しい。終始緊迫感あふれる、このブロードウェイを舞台にしたマジックリアリズム作品には、パット・メセニーとの仕事で知られるジャズドラマー、アントニオ・サンチェスによる革新的なドラムスコアがよく似合う。
一方、血しぶきが飛び散るようなドラムの速打ちに、かつて観たことも聴いたこともない映画体験へ誘われるのは、同じく本年度アカデミー賞で3部門を受賞した『セッション』だ。一流のドラマーを目指して、名門音楽大学へ入学した主人公は、学内のバンドを指揮する鬼教師に壮絶なレッスンを受ける。「ブチのめすぞ!」「クズでオカマ唇のクソ野郎!」 さんざん罵倒され、心身ともに追い詰められた主人公が辿るのは、狂気のその果てにある修羅の道だ。音楽を通じた成長物語かと思いきや、実は純粋な若者が鬼畜生の手で奈落へ落とされていく心理スリラー。そこに、撮影当時28歳だったデイミアン・チャゼル監督の独創性がある。いずれにせよ、ひりひりするような興奮を生むのはドラムの響きか。
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- Yusuke Monma
本記事は雑誌BRUTUS797号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は797号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。