エンターテインメント

最近、本を読んでないというあなたへ。

BRUTUSCOPE

No. 797(2015.03.16発行)
あなたにふさわしいモード。
五味太郎(右)、幅 允孝(左)

本読みの2人と考える、とりあえず読書について。

“本にまつわるあれこれ”を生業にする幅允孝の最新刊『本なんて読まなくたっていいのだれど、』。どなたか、尊敬する方に手渡しに行きませんかと聞いたところ、提案されたのは絵本作家の五味太郎だった。数多くの絵本を描き続ける作家と、数多くの本棚を作り続けるブックディレクター。2人の意外な関係性とは。

幅允孝 
今年の8月に70歳という一つの通過点を迎えるにあたって、これまでに出版した絵本が一堂に会する展覧会をやりたいと五味さんにお声がけいただいて。それで、最近よくお会いしてるんですけど。そもそも、なんで僕だったんですか?
五味太郎 
ずっと気になっていたんだよ。変なことを考えたなこいつは、と思って。と、同時にそういうことやってるのが幅君くらいしかいなかった。貴重な存在なんだよ。
幅 
僕のやっていることは、究極の隙間産業ですからね。
五味 
本は楽しいよねって、描く側、売る側、子供に与える側っていうのはあったけど、何の会社か、言ってもわかんないでしょ。
幅 
本屋を作ったり、ライブラリーを作ったり、編集したりと言うと長いんですが、“本にまつわるあれこれ”をやりながら、会社を作って早10年になります。

『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』というタイトルに続くように、帯に綴られた「読んでみるのもいい。」という言葉。そこには、どんな思いが込められているのか。

幅 
まあ、本は読んでほしいのですが、「お行儀よく読了すべし」みたいな、本の周りにあるムードには少し疑問を感じていて。読んだ本がその人の中でどう血肉化するか、生きることと読むことが同義になるといいなと思って、こんなややこしいタイトルになりました。五味さんは、生きることと絵本を描くことが一体化している。その歩み方が素敵だと感じていたので、本にまつわるお話ができればと思いまして。
五味 
そもそも本ってさ、何部売れたとか、賞を取ったとかって話はよく聞くけど、ほんとにみんな読んでるのかなって疑いあるよな。
幅 
何をもって読了とするのかは、難しいところですね。
五味 
最後まで辿れたから本が読めるってことではなくて、途中でやめる読書っていうのもあるよね。これは、よしここまででいい。それも読書なんだよ。それから、何年か後に読む。あれ、意外と好きで。前は、ここを読み残していたなって、絵本でさえある。新しい本を読んでいく時にも、感銘や感動はあるんだけど、それが何年か経った時にどうなるのかの方が興味深いよね。
幅 
僕も最近よく思うのが、同じ本を読み重ねると、明らかに前に読んだそれとは違う。いま読んでいるのと同じようには、二度と読めないんですよ。
五味 
でも、同じような顔してるんだよね。40年前に描いた本が、ちゃんと元気にいるの。なおかつ、刷り増してるじゃない。一昨日刷ったものなんて、もはや新刊だよ。
幅 
本の息が短くなっている中で、物語として読み継がれる絵本の息の長さは、本の世界でも独特ですよね。

読書離れが問題視されるいま、2人はどんな考えを持っているのか。

五味 
学校の先生が言ってる夏休みの課題図書とかさ、みんなつまんないって感じてるわけだよね。それを、時空を超えて幅くんが「本って面白いよ」って言っているんだと思う。
幅 
僕のところにも「どうしたら子供が本を読むようになるでしょう」って、質問を寄せられることがあるんですけど、あえて「読むな」って言ってみては? って答えるんです。
五味 
うちの親父がそうだったね。本棚は絶対に触るなって言われると、触りたくなっちゃう。
幅 
あと、読書に答えを求める人が多いんですけど、本を読んで一番良いのは、答えではなくて疑問が出ること。これが答えだっていう読書より、疑問が出てくる状況にわくわくすることが読書の楽しみなのかなって思いますね。
五味 
それに対応する本ばかりっていうのもあるよね。だから、この本は幅くんのプロフィールであり、旅行記なんだよね。大阪に行くのに、名古屋で1回降りちゃったみたいなさ。間違えたのかしれないけど、こういう辿り方って面白そう。じゃあ、行ってみようって。グレン・グールドを聴いたことない人が、「幅さんがこんなこと言ってるグールドって、どんな人なんだろう」って思う。
幅 
それで聴くか聴かないかは人それぞれなんですけど、聴く人がいてもいい。この本も一緒で、こんなふうに本を読みながら、楽しくも苦しくも生きているやつがいるんだなって知ってもらえればいいですね。
五味 
騙されたと思って(笑)。
幅 
展覧会のタイトル案の一つですね。「騙されたと思って読んでみよう」。
五味 
でも、この本も運良くすれば版を重ねて、15年後に古本屋なんかにいるんだよ。なにげない顔して。それが、本のしたたかなところだよね。
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五味太郎

ごみ・たろう/絵本作家。子供から大人まで幅広いファンを持ち、これまでの著作は400タイトル以上。日本はもとより、海外でも人気を博す。23年ぶりとなる『さる・るるる』シリーズの最新刊『さる・るるる・る』も発売中。

幅 允孝

はば・よしたか/BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会を作るため、病院や企業ライブラリーの制作を行っている。五味太郎さんの展覧会に向けて、まずどんな場所で行うべきか思案中。

『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』

主に新聞で連載していた書評を一冊にまとめた、本にまつわるエッセイ集。五味さんも注目する名古屋人について語った「赤出汁と村上春樹」は、著者を知るうえでも重要なページとなっている。晶文社/1,600円。

photo/
Erina Fujiwara
text/
Satoru Kanai

本記事は雑誌BRUTUS797号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は797号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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あなたにふさわしいモード。(2015.03.16発行)

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