映画アニメ

〝大人向け〟なムーミン映画の誕生。

BRUTUSCOPE

No. 796(2015.03.02発行)
ロンドンで見る、買う、食べる101のこと。
「また一緒にお仕事をさせてください」というグザヴィエ監督からのラブコールに「ぜひぜひ」と応じる石川さん。2人のコラボレーションが見られる日は近いかも?

グザヴィエ監督と石川光久さんが語るアニメの真髄。

劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』を手がけたグザヴィエ・ピカルド監督は、日本のアニメーションの大ファンだという。そんな監督が、ジブリと並んで「世界で最も美しい絵を描くアニメーション製作会社」だと評するのが、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『イノセンス』などを製作してきたプロダクション・アイジー。同社の代表である石川光久さんとは以前から仕事を通じて親交があったそう。久しぶりに再会した2人に、本作の尽きない魅力について語り合ってもらった。

石川光久 
私はいつも100年経っても色褪せない“強い映画”を作りたいと思っていますが、本作はその意味でまさに“強い映画”でした。非常に手間のかかることをやっているからそう思えたのかもしれません。特にカメラが全く動かないのには驚きました。カメラを固定してキャラクターだけ動かすというのは、アニメにおいてはすごくセンスの問われることです。
グザヴィエ 
今回カメラを動かしたくなかったのは、キャラクターが舞台上で劇を演じているように見せたかったからです。不安がなかったわけではありません。途中でプロデューサーに観せた時は、「いいじゃないか でも動きは後でつけるんだよね?」なんて言われもしました。最終的には、面白いからと認めてもらえましたが。
石川 
その不安はよくわかります。アニメに詳しくない人が観たら簡単なことだと思うかもしれませんが、フィックスで撮るというのは本当に難しい。単調になるのを恐れて派手に動かしてしまうのが普通です。背景とキャラクターに絵としての強度があり、それらのレイアウトも完璧でないと見るに堪えませんからね。それをすべて手描きでやり抜いてしまったのだから、見事というほかありません。
グザヴィエ 
作画に関しては、中国のスタッフに紙に鉛筆で描いてもらいました。我ながら難しい注文をしていると思いましたが、本当によくやってくれました。最終的に4m四方の箱いっぱいの量になりましたが、捨てられないのでフランスに持ち帰りました。
石川 
色や音の使い方についても相当にこだわっていますよね。
グザヴィエ 
よくぞお気づきで。原作には色がないので、そこは私たちで考えました。一歩間違えれば悪趣味と思われるかもしれないギリギリの色使いを選択したのは、それがムーミン世界観にぴったりだと思ったからです。音に関しては、観る人が物語に没頭できるよう、あまりリアルにしたくありませんでした。例えば花火の音などは実際の音を使うと戦争シーンみたいになってしまいムーミンらしくありません。なので音響スタッフに音を一から作ってもらいました。その際、参考にしてもらったのが映画監督であるジャック・タチの作品。彼の映画のようにエレガントな音にしたかったのです。
石川 
音という点では音楽も秀逸だと思いました。いくら音楽が良くても、それだけが際立ってしまっては作品が台無しになってしまう。その点、本作は絵と音楽がうまく調和しているなと思いました。
グザヴィエ 
そう言ってもらえると嬉しいです。音楽はアニエス・オーベルというアーティストに頼んだのですが、宮崎駿監督の音楽の使い方が好きなので、久石譲を参考にしてもらいました。宮崎監督には強く影響を受けているので、細かい部分をよく見ると音楽以外も彼の作品にオマージュを捧げているところがあるかもしれません。
石川 
もう一点、私が素晴らしいと思ったのは、大人が感情移入できる物語であるところ。ムーミンを通して、人間の持つ不完全さを描いているといえばよいでしょうか。例えば、フローレンがほかのキャラクターの虜になって、ムーミンが嫉妬するというシーンなどにそれを感じました。その意味では、子供向けと見せかけて実は子供には難しい内容かもしれません。自分の携わる作品はバイオレンスだとかセクシュアルだとかいう言葉で語られがちですが、そうした描写を通して描きたいのも、やはり人間の不完全さ。ですから、深い部分で自分のクリエイションと共鳴する部分があると思いました。
グザヴィエ 
おっしゃる通り、キャラクターは子供向けですが物語は普遍的なメッセージが込められた大人向けのものです。もちろん、ヤンソンの原作がそうなのですが。彼女はムーミン以外にも色々書き残しています。劇中に「平和に暮らし、イモを育て、夢を見る」という台詞が登場しますが、それは彼女が別の作品で書いた言葉。とても感銘を受けたので使ってしまいました。この作品をきっかけに、ムーミン以外のトーベ作品にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。

石川光久
いしかわ・みつひさ/アニメーション製作会社プロダクション・アイジー代表取締役社長。プロデューサーとして数多くのアニメーション映画、ゲーム制作などを手がける。代表作に『イノセンス』など。最新作『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』が公開待機中。

劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』監督:グザヴィエ・ピカルド/バカンスを過ごすためにやってきた南の島でムーミン一家が巻き起こす騒動を、ほがらかなタッチで描くエンターテインメント作。全国公開中。
© 2014 Handle Productions Oy & Pictak Cie © Moomin Characters™

『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』
監督:原恵一/原作は江戸風俗研究家でもある杉浦日向子の同名漫画。葛飾北斎とその娘を中心に、江戸に生きる町人たちの生活や交流を描く大娯楽群像劇。5月公開予定。
© 2014ー2015杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会

photo/
Shinichiro Fujita
text/
Keisuke Kagiwada

本記事は雑誌BRUTUS796号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は796号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.796
ロンドンで見る、買う、食べる101のこと。(2015.03.02発行)

関連記事