エンターテインメント

実話に基づきながら、事実の再現にとどまらない、2つの優れた映画。

BRUTUSCOPE

No. 794(2015.02.02発行)
みんなの写真

アメリカの闇を浮き彫りにする『アメリカン・スナイパー』『フォックスキャッチャー』公開。

 実話を映画化した作品が、単なる再現フィルムにとどまるのならつまらない。あくまで“Based on a True Story”。実話に基づきながら、新たな解釈や発見、時に空想が加わってこそ、それは観るべき映画になる。
 クリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』は、9.11後のイラク戦争に従軍し、米軍史上最多の160人を射殺した“伝説の狙撃手”クリス・カイルの実体験を映画化した。主題はイーストウッドの過去作『父親たちの星条旗』と同様に、戦場で心に傷を負った男の、その後のドラマ。でもイーストウッドは、幼少期からカウボーイに憧れたカイルの戦いに西部劇をダブらせ、ジャンル映画の興奮をそこに付け加える。米軍最高の狙撃手と反政府武装勢力名うての狙撃手、つまり2人のガンマンが“果たし合い”を行うクライマックスは、西部劇の歴史と共に歩んできたイーストウッドならではの演出が冴えわたる。大砂塵の中、建物屋上で敵を迎え撃つネイビー・シールズの死闘は、西部劇でお馴染みの砦をめぐる攻防に対する明らかなオマージュだ。
 一方、『カポーティ』『マネーボール』と実話の映画化を手がけてきたベネット・ミラーは、新作『フォックスキャッチャー』で1996年に起きたある射殺事件の背景を掘り起こす。全米屈指の財閥、デュポン社の御曹司であるジョン・デュポンは、世界一を目指す自身のレスリングチーム“フォックスキャッチャー”にロス五輪の金メダリスト、シュルツ兄弟を招くが、彼の言動は次第に常軌を逸していき……。ミラーとキャストは関係者への独自取材を数年間にわたって行い、その実りを脚本や芝居に反映させた。精緻なノンフィクションを読破したような、十二分な観応えがある。

©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

アメリカが何度も繰り返してきた悲劇に2人の監督が迫る。

『アメリカン・スナイパー』

監督:クリント・イーストウッド/出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー/戦地で数々の惨状を目撃した男は、戦場を離れても狂気にとらわれ…。主人公を演じるB・クーパー自ら映画権を獲得した。2月21日、丸の内ピカデリーほかで全国公開。

Photo by Scott Garfield ©MMXIV FAIR HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『フォックスキャッチャー』

監督:ベネット・ミラー/出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム/巨大企業の御曹司が起こした、痛ましい射殺事件の真実。主要キャストが披露するオスカー級の芝居も圧倒的。カンヌ映画祭監督賞受賞。2月14日、新宿ピカデリーほかで全国公開。

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS794号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は794号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.794
みんなの写真(2015.02.02発行)

関連記事