エンターテインメント

僕はダメな人たちと同じ目線で、ダメな人たちを描きたいと思ってる。

BRUTUSCOPE

No. 790(2014.11.15発行)
進撃の巨人
藤田容介(右)、荒川良々(左)

6年ぶりに新作『福福荘の福ちゃん』を手がけた"幻の監督"に荒川良々が聞く。

数年前、園子温監督が「80年代の自主映画はすさまじかった。例えば——」と言って教えてくれたのが、藤田容介(当時は秀幸)監督だった。藤田容介は1987年に『虎』でトリノ映画祭8ミリ部門グランプリを受賞し、自主映画界を席捲して、その後〈大人計画〉の舞台映像を手がけたり、『グループ魂のでんきまむし』を監督したりしてきた。ところが、いわゆる商業映画として発表した作品はこれまで2008年公開の『全然大丈夫』のみ。自主映画時代の作品はすべて入手も観賞もできない状況を考えると、藤田容介は"幻の監督"とでも呼ぶべき存在なのだ。
 
そんな彼の6年ぶりとなる新作、『福福荘の福ちゃん』が現在劇場公開されている。森三中の大島美幸がおっさん役で出演していることも話題の作品だけど、観ればこの作品の面白さはそれだけにとどまらない。『全然大丈夫』、そして本作と続けて出演し、「監督のためなら何でもする」と全幅の信頼を寄せる荒川良々が藤田監督と話した。

荒川 
3、4年前に「こんな話を考えてるんだ」って飲み屋で教えてもらいましたよね。
藤田 
以前、テレビで森三中の大島さんを観た時、この人が肉体労働者のおっさんを演じる映画が作りたいと突然思いついて、それと同時にその親友役は荒川くんというところまでイメージしたんだよね。その後、荒川くんは顔が広いから、ほかのキャスティングのことを相談したり。
荒川 
『福ちゃん』みたいなオリジナル脚本の映画って今は少ないじゃないですか。
藤田 
今の日本映画で原作がない作品を作るのは本当に大変。結局、着想から映画になるまでかなり時間がかかってしまって。いろいろ労力が要りました。
荒川 
藤田さんの作品は脚本の段階から全然無駄がないんですね。だから役を作る必要がないというか。現場で面白いことを言ってみようと思うと、「そんなのやんなくていい」って言われて(笑)。全部見透かされてる気がするんです。大島さんが演じた福ちゃんも、僕がやったシマッチも、映画の中にいるのは藤田さんの分身なんじゃないかって気がするんですよね。
藤田 
うん、ほかのキャラクターも含めて、自分をちょっとずつ投影してるところはある。
荒川 
そうやって藤田さんの頭の中から生まれたものだから、藤田さんははっきりと撮りたいものを持ってると思うんです。その世界にどれだけ近づけるかなんですね、役者は。
藤田 
荒川くんはそこを飛び越えていくけどね。イン前のリハーサルで「不思議な顔をしてくれ」って宿題を出したら、本番の時に予想をはるかに超える変な顔をしてくれて(笑)。
編集も含めて100回以上観てるけど、あのピクニックのシーンの目をパチパチする顔は今見ても笑っちゃうから。ああいうのは下手にやると、あざとくなるんだけど、あざとくない。
「ここ面白いから」って主張してる芝居は面白くないですよね。
荒川 
そうそう、なんか下品になっちゃうんですよね。
藤田 
荒川くんは守備範囲がすごく広いと思うんです。わりと似たような変わった役柄でキャスティングされがちな気がするけど。
荒川 
荒川さん、普通にしゃべれるんですね」ってよく言われます(笑)。普段から変な人だと思われがちなんですね。
藤田 
でも今回だって、乱暴な一面もあればお節介焼きな一面もある役で、荒川くんはそういう相反するものを表現できる役者さんなんです。最近の映画やテレビで、驚くほどパターン化されたキャラクター設定の作品もあるじゃないですか?
荒川
あー、ありますよね。
藤田 
でも映画は本来その裏側を見せたいわけだから。主人公の福ちゃんだったら、がさつなおっさんの面もあるけど繊細だし、心に傷を負っていて、けどニコッて笑ったら本当にいい笑顔になる。人間ってやっぱりいろんな面があるわけで、そこを立体的に描きたいんですよね。その多面性を表現できるのがいい役者さんだと思います。もちろん演技力もあるけど、荒川くんも大島さんも素のキャラクターの中に、そういった相反するものが自然に同居してるんです。たぶん僕はそういう役者さんが好きなんですね。
今回の映画では一見ダメな人たちばかり登場しますが、監督も役者さんも誰一人ダメな人だと思って作ってないですよね。
藤田 
そこが自分の映画の肝だと思っていて、ダメって言われているような人間を見下げて笑うことが何より嫌いなんです。人間を小バカにして笑うような映画ってあるじゃないですか? 反対に人間を美化する映画も嫌いだし。僕はダメな人たちと同じ目線でそういう人たちを描きたいと思ってるんです。人の愚かしい営みに共感して笑ってほしいんです。
荒川 
僕が言うのもおこがましいですけど、藤田さんはどんどん撮ってもらいたい監督です。僕はどんな形でも関わっていくつもりですから。
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荒川良々

あらかわ・よしよし/1974年佐賀県生まれ。98年から〈大人計画〉に参加し、2000年『アナザヘヴン』で映画デビュー。08年『全然大丈夫』で映画初主演を果たした。公開予定作品は松尾スズキ監督作『ジヌよさらば』(15年公開)など。

藤田容介

ふじた・ようすけ/1963年兵庫県生まれ。大学在学中に映像制作を始め、『虎』『遠足』『クラゲ釣り』など自主映画が注目を集めた。92年松尾スズキと『猿で行く』を監督。2008年『全然大丈夫』を監督、ドラマ『さば』(2008年)なども手がける。

『福福荘の福ちゃん』

監督:藤田容介/出演:大島美幸、水川あさみ/心優しいはみ出し者たちに囲まれて暮らす福ちゃん。人情味に溢れながら恋愛が苦手な彼には、実は女性恐怖症になってしまった理由があり…。心底から笑えて、爽やかな後味を残す、愛おしいダメ人間賛歌。新宿ピカデリーほかで全国公開中。©2014『福福荘の福ちゃん』製作委員会

photo/
Satoko Imazu
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS790号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は790号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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