エンターテインメント

フランスの新たな鬼才。それは—。

BRUTUSCOPE

No. 789(2014.11.01発行)
男の定義
ギヨーム・ブラック監督の初長編作『やさしい人』公開。
 ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメール、レオス・カラックス、アルノー・デプレシャン……類い稀な才能とカリスマ性を持つたくさんの映画監督を輩出してきたフランスから、久々に注目の鬼才が現れた。それがギヨーム・ブラックだ。しかしこのブラック、これまでに発表した作品は一つの短編と一つの中編のみ。なのだが、その中編『女っ気なし』が本国でロングランヒットし、昨年日本でも熱狂的に迎えられ、彼の名は最も将来を嘱望されるフランス人監督として、たちまちめざとい映画通たちの脳裏に刻み込まれた。
 そして彼が満を持して作り上げた長編第1作が、フランスの小さな町・トネールを舞台に、劣等感を抱えたミュージシャンと若く美しい恋人が愛憎劇を繰り広げる『やさしい人』である。観た……素晴らしかった 現実を受け入れられない男の葛藤、幸福な愛の物語が突如急転するサスペンス、随所にちりばめられたポップカルチャーへのレファレンス。繊細な人間描写がフランス映画の肌触りを残しながら、決してフランス映画の文脈に閉じていないところが、彼の映画の大きな魅力だ。ブラック監督、いろいろ細かいことを聞かせてもらってもいいですか?
──主人公であるマクシムがミュージシャンだったり、前作『女っ気なし』の主人公がWiiでゲームに興じていたり、監督の作品には決まってポップカルチャーに親しみを持つ人たちが登場します。何か理由はありますか?
ブラック 本作も前作もフランスの田舎町を舞台にしていますが、そんな小さな世界に暮らす人たちも、さまざまなポップカルチャーに触れて生きている。それを示したかったんです。例えば、本作ではマクシムの父親の部屋にボブ・ディランやサイモン&ガーファンクルのレコードがディスプレイされているし、前作では『イージー・ライダー』のポスターや『ザ・シンプソンズ』のフィギュアが飾られている。それが現代を生きる我々の一般的な姿ですよね? しかも、そういったアイテムは必ず意味を持っています。父親の部屋にあるたくさんのレコードを見れば、マクシムが父の影響を受けてミュージシャンになったんじゃないかと推測できますね。
──本作のマクシムは、映画『スーパーバッド 童貞ウォーズ』の写真がデザインされたTシャツを着ていますが、あれも意味を持っていますか?
ブラック はい。あのTシャツを着せているのは、マクシムと恋人、それに父親たちが思春期の思い出を語り合う場面が、思春期を描いた『スーパーバッド』と重なるからです。
──前作の主人公はベン・スティラーがプリントされたTシャツを着ていましたよね。監督の作品は、いつもTシャツのスタイリングが最高だなと思って観てるんですが。
ブラック ははは。ベン・スティラーのTシャツは知人が僕の誕生日にプレゼントしてくれたものです。僕は一度も着たことがなかったけど、映画で役に立ったからよかったなって(笑)。『スーパーバッド』のTシャツは今回のために手作りしました。
──へえー。ひょっとして監督がスタイリングも手がけているんですか?
ブラック 衣装はキャラクター像を決めるうえでとても大事なものだから、共同脚本家と話し合いながら自分で選んでいます。衣装だけでなく数々のアイテムも重要ですよね。映画に登場するアイテムは僕にとって愛着のあるものがほとんどで、ずっと使ってきたものや誰かにもらったものを使っています。サイモン&ガーファンクルのレコードなんかも、実際に持っていたものではないけれど、僕の父親が聴いていたものです。
──マクシムの父親の部屋にはニール・ヤングのレコードも飾られていますが、面白いと思ったのは、決して彼の代表作とはいえない『渚にて』が飾られているところです。それもおそらく意味があるんだろうなと。
ブラック ああ、あれは撮影をした冬のトネールと、『渚にて』のジャケットに写る夏の浜辺が、好対照で面白いと思ったからなんです。それにしてもあなたの質問はすごく細かいところを突いてくるけど、そういった細部こそ観客の心を惹きつけたりするものですよね。だから決して無視できない重要な点だと思います。
──監督の映画の良さは、一つにはそういったポップカルチャーを参照することで、どの国の人も共感を持って観られるところにあると思います。フランス映画の肌触りを残しながら、決してそこにとどまっていないという。
ブラック 僕が強く影響を受けてきたのはロメールやジャック・ロジェ、モーリス・ピアラといったフランスの監督たちだけど、『女っ気なし』を撮った時に念頭に置いていた監督はアメリカのジャド・アパトーだし、今回も犯罪劇のようなジャンル映画を意識していたんです。
──そして恋愛映画としての魅力もありますね。
ブラック まずこの作品は、美しい光の中でマクシムと恋人が愛を育むところから始まります。でも恋人が突然彼を捨てたことによって、彼の恋愛に対する情熱は暴力へと変わっていってしまいます。そのコントラストを見せたかったんです。喜びと苦悩のコントラストというのかな。この作品は僕の自伝的な物語でもありますが、もし国を超えた普遍性があるとしたら、それは個人的なものだからかもしれません。映画は個人的であればあるほど、多くの共感を呼ぶのだと思います。
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『やさしい人』

監督:ギヨーム・ブラック/出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ/父が暮らす実家へパリから戻ってきたマクシム。ミュージシャンとして完全に行き詰まり、鬱屈を抱えた彼は、地元で働くメロディに恋をするが…。フランス屈指の個性派俳優、ヴァンサン・マケーニュの魅力も光る。ユーロスペースほかで全国順次公開中。©2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA

GUILLAUME BRAC

ギヨーム・ブラック/1977年フランス生まれ。フランス国立映画学校で製作を学び、2008年に製作会社〈アネ・ゼロ〉を設立。そこで自ら短編『遭難者』('09)、中編『女っ気なし』('11)を監督した。ロカルノ国際映画祭コンペ部門出品の『やさしい人』で長編デビュー。

text/
Yusuke Monma

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