酒と所作。

No. 785(2014.09.01発行)
強い酒、考える酒

強い酒は、その強さゆえに飲む者の「地金」を容易に明らかにしてしまう。何を飲むかと同じくらい、もしかするとより大事な「どう飲むか」を、名店〈ラジオ〉のカウンターに立ち続けてきた、尾崎浩司さんから教えていただいた。

 魅力的なお客様というと、まず思い浮かぶのは和田誠さんです。ふさわしい相手とお酒、そして映画や音楽、デザイン、落語など、多彩な話題を縦横に話されるので、いつの間にかほかの席のお客様まで耳をそばだて、笑顔にさせてしまう、稀有な方です。役所の縦割り行政のように、酒だけ、グラスだけ、インテリアだけの知識に通じても、豊かな「文化」にはつながりません。いいグラスにいいお酒が注がれ、美しい花や照明で装われた場にふさわしい話題を、縦にも横にも広げてくださるお客様がいることで、バーが完成するのです。そういう意味では、ファッションを「うわべだけのもの」と軽視されるのは残念なこと。ものを、あるいは自分を、ひいては他人を大切にできるかどうかが、端的に表れるのはファッションです。自身が美しければ、バーの景色も美しくなる。店や、ほかのお客さまを慮った装いと振る舞いこそ、自然で、しかも洗練されて見えるのです。ただしそれを、バーに行った時だけやろうとしても、すぐメッキが剥がれてしまうのですが。
 バーには、ブランデーやカルバドスなど、日本人にはまださほど飲まれていない、おいしい「強い酒」がたくさんあります。また腕のいいバーテンダーなら、本来安酒のジンを使って、痺れるような極上のマティーニを、1杯1500円以内で作ることもできる。これからバーへいらっしゃる方々には、ぜひ未知のお酒と出会っていただきたいですし、飲んだカクテルの評価をバーテンダーに伝え、店を育ててもいただきたいのです。

尾崎浩司

おざき・こうじ/1944年徳島県生まれ。16歳から茶道を始め、23歳で上京、新宿〈DUG〉に勤務後、72年、東京・神宮前に初代〈バー・ラジオ〉開店。86年〈セカンド・ラジオ〉、98年〈サード・ラジオ〉を開店。現在は京都東京を行き来しながら、月の半分は店に立つ。

photo/
Tetsuya Ito
text/
Mari Hashimoto

本記事は雑誌BRUTUS785号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は785号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.785
強い酒、考える酒(2014.09.01発行)

関連記事