映画

心の中で思い描いてきたものが、東京で一つの輪につながったみたいだ。

BRUTUSCOPE

No. 781(2014.07.01発行)
ドラマがつまらないなんていったのは誰だ!

川内倫子の写真集が、スパイク・ジョーンズ最新作に、与えた光。

川内倫子の写真集、『ILLUMINANCE』を手に、スパイク・ジョーンズ東京にやってきた。この写真集は最新作『her/世界でひとつの彼女』の最初のインスピレーション源で、LAのARCANA書店で出会って以来、ずっとスパイクの案内灯となり映画を導いてきた。たくさんの付箋が貼られた写真集を差し出し、「サインしてください」と言うスパイク。彼の作品へのアプローチにシンパシーを感じていたと言う川内倫子が迎える。

スパイク 
映画を撮り終わったときに、作品の思い出として倫子さんのプリントを2枚購入させてもらいました。3年くらいかけて映画を作っていたので、この時期の僕の人生を象徴するような思い出となるように。
川内 
どうもありがとう。気に入ってくれてとても嬉しいです。私が好んで撮る光の射し方だな、と思って映画を観ていたんです。
スパイク 
『ILLUMINANCE』に惹かれた理由は、倫子さんの色彩の使い方。そして光が、温かさやクールさを表すのではなく、ただ白いところ。例えば、このタバコの写真は限られた数の色彩の中で、白い光がとてもニュートラルで強い印象を残しています。倫子さんのアプローチに、観察的な視点を感じるんです。
川内 
映画の資料を読んでいたら、ホアキン・フェニックスさんが自分の演技を分析せずに、暗闇を彷徨っているように演じているところが好きだとおっしゃっていましたね。スパイクさんも、そうやって、観察するように演技などを俯瞰しながら、映画を作っているんですか?
スパイク 
そうですね。脚本から書いているし、映画というのはゆっくりと、だんだん作られていくものだから。最初に自分の中に生まれた複数の競合する感じ方や考え方、一つにまとまらないものを個々に描くのではなくて、映画を観終わったあとに僕の頭の中にあった混沌や風景を感じてもらえるような作品を作りたいと思っています。
川内 
私はスパイクさんと同世代ということもあってか、この映画の中で描かれていることにとても身につまされました。恋人と一緒にいた楽しい時間も思い出したし、別れた後に高層ビルの上から見る景色の切なさも知っている。近未来という新しい世界の設定に、人間の普遍性が入っているところがとても好きでした。私がいつも作品を作るときに目指しているものが、普遍性を含みながら新しいものの見え方を同居させること。スパイクさんの映画もいつもその点を感じます。
スパイク 
倫子さんもそうだと思うけれど、作品を作っていく過程で普遍性って何なのかわからなくなっていく。だから、自分に正直になって、自分が混乱していること、悲しいと思うこと、不安に感じていること、そして興味を持っていることを追求していく。そうすると、普遍性に辿り着くことができるようになるんじゃないかなって思うようにしているんです。
川内 
自分に正直になることは、自分をさらけ出すことでもありますよね。怖くはないですか?
スパイク 
映画を作ることも、脚本を書くことも、監督することもあまり怖いと感じることはないですね。今から振り返ってどうだったと言うのは簡単だけど、映画を作っている最中は、こっちから見たり、あちら側から見たりと格闘しているので、なかなか自分のことを冷静に考えられないな。
川内 
そうですね。私もそうかもしれない。
スパイク 
でも、そっちの方が楽しいですよね。それに、自分が何をやっているのか、どこに辿り着くのか全部コントロールしてしまうのはとても危険だと思う。ホアキンは、どうやってその感情に辿り着くのか知りたくないし、どこへ辿り着くのかも知りたくない。だから彼の演技はいつもいきいきしているんだと思う。倫子さんが作品を作るときも同じようなプロセスなのでは?
川内 
同じです。だから、「暗闇を歩いているよう」というところに共感したんです。そして、ベッドに横たわってサマンサと話しながら埃が舞うのを見ているシーンで、美しい埃が全てのメタファーに見えました。埃は何でもないものだけど、すごくきれいで、すぐに消えてしまう。あの会話のシーンにとてもマッチしていた。
スパイク 
先にセリフを書いて、そこにどんな映像を見せるのか考えなくてはいけなかった。だって、今回の映画に関しては彼女の顔をカットバックで見せることはできませんからね。
川内 
もう一つ好きなシーンは、サマンサと連絡が取れなくなって、地下鉄の出口のところでようやく繋がるシーン。周りに知らない人たちがたくさん歩いている中で混乱しているのが、とても象徴的でした。私が混乱したときの気持ちを映像化するとこうなるのかなと思ったんです。なぜ私の気持ちを知ってるんだろう? と思いました。
スパイク 
それを聞けてとてもうれしい。今日はお話ができて、人間として思いを分かち合えている感覚を持てました。一方的に質問されるだけの取材では、そういったことはとても稀ですからね。

her/世界でひとつの彼女』

監督・脚本:スパイク・ジョーンズ/出演:ホアキン・フェニックス/近未来LA。サマンサという人工知能型のOSとの、あり得ないはずの恋を描いたラブストーリー。アカデミー賞脚本賞受賞。新宿ピカデリーほかで全国公開中。

『ILLUMINANCE』

約15年をかけ撮りためた写真を収めた写真集。光と闇、生と死、美しさと悲しさを含有する川内倫子の世界をNYのAperture社とほか4ヵ国の出版社が共同出版。4,300円(FOIL)。

photo/
Haruka Fujita
text/
Itsuko Hirai

本記事は雑誌BRUTUS781号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は781号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.781
ドラマがつまらないなんていったのは誰だ!(2014.07.01発行)

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