喜臨軒/ビストロシノワ陽

グルマン温故知新

No. 779(2014.06.02発行)
喫茶店好き
黒酢のしめ鯖 米酢で割った黒酢と、紹興酒で〆た鯖。「醤油でも十分おいしいんですけれど」と言いつつ、添えてあるのはオリーブオイルにすりおろしたワサビ。これが黒酢の風味を鮮やかに引き立ててくれるから不思議。900円。

蒸し鶏三種盛り これは定番から。大山鶏の胸肉を、一つは紹興酒に漬けて酔っ払い鶏に、一つは四川風のソースをかけてよだれ鶏に、もう一つは青ネギのソースをかけて。こういう定番も手をかけていて、ちゃんと旨い。1,000円。

ビストロシノワ陽

●阿佐ケ谷

定番メニューに潜む、変化球も狙え!

 麻婆豆腐に黒酢の酢豚、担々麺……。グランドメニューには潔いほど定番料理が並ぶ。「阿佐ケ谷という場所柄、年配の方やご家族連れも多いので」と、店主の小川陽介さん。「ただ、おすすめを訊ねられた時は、あちらを」と指した先には、控えめに掲げられた黒板メニューが。そこに並ぶのは、皿が置かれる前から濃厚に海老が香る、アメリケーヌソースを使った海老の雲南唐辛子炒めに、ワサビが黒酢の風味をプンと際立たせたしめ鯖! 定番とは振り幅が大きい、が、香辛料や調味料でちゃんと中華の印象を残した面白い皿なのだ。素材の旨味と香辛料の重ね方もうまい。
 実は、店主の小川さん、有名中国料理店で修業を積んだ後、2年間、カレーラーメンの人気店を1人で切り盛りしていて、変化球もお手のもの⁉ その時、隣接のバーで酒類も学んだそうで、好きだという日本酒の品揃えもなかなか。まだ31歳。ポテンシャルを秘めた新店だ。

定番主義でも個性弾ける、30代シェフの中国料理。

料理も、合わせる飲み物も、供するスタイルも自由闊達。中国料理の世界にも、そんな若手の日本人シェフが増えてきた。この2軒の30代店主もしかり。表現の仕方は違うが、麻婆豆腐や蒸し鶏といった定番料理への愛を持ちつつ、自分らしさをのぞかせている。

麻辣豆腐 豆腐は、有機大豆の豆乳に天然にがりを加えて作った、豆腐花のように柔らかい自家製。ここにあんをかけるだけだが、豆腐を山椒油や辣油の風味が包み、醍醐味はそのまま。豚挽き肉はテンメンジャンでしっかりと炒めてあり、ぽろぽろの肉とふわふわの豆腐との食感の対比も鮮やか。予約が確実。1,296円。

焼売 香港点心の醍醐味を味わいたいならコレ。異なる食感が楽しめる海老と、手切りの豚肩ロースで作ったあんが、なんとも贅沢なシュウマイは、修業先から受け継いだ作り方そのままで。1個からオーダーできる。270円。

和牛の黒胡椒炒め蜂蜜風味 喜臨軒風 本来は薄切り肉で作る料理だが、ここでは塊のままの牛肉にオーブンで火を入れ、厚めにカット。蜂蜜と黒コショウの甘辛いジャンは、仕上げにさっとまとわせる感じ。牛肉を食べている満足感は見た目以上。3,024円。

喜臨軒

●池尻大橋

素材が変われば調理法も変わる、温故知新中華。

 作っているのは、麻辣豆腐、すなわち麻婆豆腐である。でも、豆腐を四角くカットしない。しかも、辛くて痺れる、あの麻辣のあんを絡めない! ソースのようにかけるだけ。「豆腐が主役なので、豆腐の味が活きたものにしたくて試行錯誤した」と、店主の安澤敦さん。なるほど、麻婆豆腐新しい世界とでもいおうか、麻辣のパンチは効いているのに、自家製豆腐の甘味や旨味が驚くほど感じられる。牛肉を塊のまま焼いて作る黒コショウ炒めも同様。どちらも定番の伝統料理なのに、主役の素材の際立ち方が格別なのだ。
 横浜にあった広東料理の名店で修業を積み、昨年9月に自店を構えた安澤さんは言う。「昔と今とでは、素材の質が違います。それに合うよう、調理法を見直して、より主役が活きた伝統料理を作っていきたい」。30代ながら、理論はしっかり。そんな“温故知新”の中国料理は、一度行くとあれもこれもと興味が湧き、リピーター増加中。

天使の海老の雲南唐辛子炒め 2色のソースで 衣をつけて揚げた天使の海老を、雲南唐辛子と炒める。ここまでは王道。が、次に入るのは、甘海老の頭でダシを取るところから作った、いわゆるアメリケーヌソース。海老に海老を重ねた濃厚な風味に、雲南唐辛子の鮮やかな香りが絡む。バジルソースは変化をつけたい時に。1,050円。

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喜臨軒
●池尻大橋
仲間4〜6人ぐらいであれもこれもと楽しみたい。
しっかり飲んで食べて、1人5,000円前後。
03・5787・6982

●東京都世田谷区池尻3−2−5 コンフィアンス流来B1−B。11時〜14時LO、18時〜22時30分LO。日曜休。交通:東急田園都市線池尻大橋駅西口を出て、三軒茶屋方面に徒歩1分。厨房前にカウンター席、奥にテーブル席があり、テーブル席は個室使用も可能。ディナーはアラカルトのほか、4,860円〜のコースも。マンゴープリン「香港で人気のフルーツスープで」648円、家鴨のオーブン焼き北京ダック風半羽3,888円などもおすすめ。ランチは、麺飯料理を6種から選ぶセットが平日1,000円、土・日・祝1,400円〜。ドリンクは、紹興酒をメインにワインも揃う。3種の紹興酒が楽しめる利き酒セット972円もあり。

ビストロシノワ陽
●阿佐ケ谷
休日に家族を連れていくと、株が上がるかも。
1人5,000円あれば、食べて飲んで大満足。
03・5364・9835

●東京都杉並区阿佐谷北4−6−29。11時30分〜14時LO、18時〜22時30分LO。火曜休。交通:JR阿佐ケ谷駅北口から中杉通りを早稲田通り方面に徒歩8分。フレンチレストランだったという場所に、今年2月にオープン。料理は、仕込みから小川さんが1人で作っている。ディナーはアラカルト中心だが、3,000円〜のコースもあり。ふかひれの焼醤油スープ1,050円、フォアグラのソテー 黒酢チョコソース1,200円、トロサーモンのレア山東炒め950円。ランチは860円〜。日本酒はグラス350円〜、ワインはグラス600円〜。日本酒もワインも、中国料理の味つけに負けないものを、小川さんがセレクトしている。

photo/
Shin-ichi Yokoyama
text/
齋藤優子

本記事は雑誌BRUTUS779号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は779号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.779
喫茶店好き(2014.06.02発行)

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