エンターテインメント

中国の急速な変化は何を生んだのか?

BRUTUSCOPE

No. 778(2014.05.15発行)
親と子
長年、関係を深めてきた2人。「その間に是枝さんは父親になった。うらやましいです」(ジャ)
ジャ・ジャンクー監督と是枝裕和監督が語る映画と時代。
ジャ・ジャンクー監督の新作『罪の手ざわり』は、近年の中国で実際に起きた4つの事件を題材に、そこで罪を犯した人々の孤独や悲しみに迫る問題作。驚くのは、ドキュメントタッチの映像に定評のあったジャ監督が、今回大胆にバイオレンス描写を取り入れたことだろう。 ジャ・ジャンクーはどうして変わったのか? 共に1990年代半ばに監督デビューし、国際映画祭などを通じてアジアを牽引してきた是枝裕和監督と語った、暴力のこと、社会のこと。
是枝 まず、今までと変わらずにきちんと人間を描こうとしている部分と、今までにない鬱屈したものの暴発  わかりやすく言えば暴力描写と向き合っている部分があって、そこがすごく新しいと思いました。ただ、暴力描写も暴力を描くためではなく、今の中国をどう捉え、そこで人が生きることはどういうことかを考えたうえで生まれている。
ジャ おっしゃる通りです。実は『一瞬の夢』の頃から、どことなく暴力的な要素は意識していました。ただ、暴力を正面から撮ることがあまり好きじゃない。でも、暴力的な事件はますます増えてきていますね。そんな中、助けてくれる人がいなかったり、追い詰められたりして、暴力と向き合わざるを得なくなった人たちの孤立無援なさまを、4つの事件を通して撮ってみたいと思ったんです。
是枝 正直言って驚きでした。いつも稀有だなと感じるのは、非常にリアルなことと詩的なことが両立しているところ。僕らはほぼ同じ時期に、ドキュメンタリースタイルと括られる方法で映画を撮り始めて、プロフェッショナルでない人にどうカメラを向けるかというところからスタートしました。だから、似ている部分もあるけど、リアリズムと詩情が融合したあなたのスタイルはとても新しかったし、それは今回も同じ印象です。
ジャ 今まで人が生きる姿を自然に撮りたいと思ってきましたが、自然に暮らす人たちの中には、映像的な美が潜んでいる。そこは僕が日常を切り取る時の鍵になる部分なので、是枝監督にそう言ってもらえてうれしいです。
是枝 本来的な意味で美しいものを撮ろうとしているわけじゃないんですよね。あなたの映画によく出てくる要素は、例えばカラオケだったり、現代の私たちを取り巻くチープなもの。それは上の世代の監督が撮っていた「中国的な」映画と明らかに違うルックの作品を意識していると思います。それでいて悲惨なものを提示して終わるのではなく、その向こう側で人々の営みを見つめる目はとても温かい。それまでなら映画の登場人物になり得ないような人たちにスポットを当てて、その生をちゃんと撮っているんです。生活の中にある美しさっていうのかな。
ジャ 是枝監督の作品もそうですね。『そして父になる』で、大人たちが怒って話をしている中、子供がピストルを撃つ真似をしてやってくる。あれは僕にとってとても詩的なシーンです。
是枝 今回の作品なら、男たちがうどんを立ち食いしているシーン。あの顔がすごいんです。いつも思うけど、ジャ監督の映画に出てくる人たちは、みんな顔が印象に残る。
ジャ 何か具体的な基準に沿って、出演者を選んでるわけではないんですけどね。ただ、出演者選びにはいつも時間がかかります。相手に会って、そこから受ける感覚を頼りに、自分が関心を持てる人を選んでいる。
是枝 僕のキャスティングも、相手に会って、その人でセリフが書けるかという直感的なところが重要です。ところで今回、あらためて暴力に興味を持った理由は、ここ10年、20年の中国の急速な変化が、人間を置き去りにしているという危機感や不安があったからですか?
ジャ はい、特にこの2、3年、微博(ウェイボー。中国ツイッター)を通じて、暴力に関する情報がたくさん入ってくるようになりました。中でも、貧富の差によってもたらされる暴力がいかにはなはだしいか。僕が映画を撮り始めた頃は、貧富の差といっても、小学校に行けない子と家に車がある子という程度の差でした。ところが今は、小学校へ行けない子と家に飛行機がある子くらいの差があります。しかも、その差は努力によって開いたのではなく、権力を握っているかどうかで決まってしまった。庶民の気持ちは穏やかではありません。そこで問題を解決する手段として、かつて共産党が暴力を肯定してきたこともあり、暴力に頼ってしまうんじゃないかと。
是枝 ジャ監督の作品は、これまでも社会の変化から置き去りにされ、疎外されている人たちを主人公にすることが多かったと思います。ただ、今回はそういう時代の変化に対する考えがいつも以上に強く反映されたのかなって。
ジャ 僕自身、映画を撮り始めてから15年以上を経て、変化し困惑してきました。その困惑の理由を突き詰めると、決して社会の問題を撮りたいわけではないのに、映画を撮っていると結局、社会の中で解決されなかった人々の苦しみにぶつかってしまうからなんです。それを僕の映画の美点だと言う人もいるかもしれないけど、当人としてはなぜいつもそうなってしまうんだろうって。
是枝 僕は決して時代に背を向けるつもりはないけど、現代性をストレートに意識するより、その時代を生きる自分がどう立ちすくんでいるか、そこで何が大事なのか、そういったことを一人の生活者として掘り下げようと思っているんです。この5、6年は、そのうえで見えてくる時代性みたいなものに立ち返ってみようと。一見、ミニマリズムになっているのかもしれません。でも、そうやって範囲を狭くして、自分の考え方を見つめていくことが、今は非常に切実なものだったりするんです。監督としてというより、一人の人間として。
ジャ 是枝監督と同じように僕も今を生きていて、感情をもって毎日生活しています。それをきちんと描くために、社会の問題は描かないようにしようと思いましたが、生活を撮るとどうしても社会のことが出てきてしまう。結局、僕はその時代性を受け入れることにしたんです。
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『罪の手ざわり』

監督:ジャ・ジャンクー/出演:チャオ・タオ/炭鉱の利益を実業家に独占された山西省の男、出稼ぎと偽り強盗を繰り返す重慶の男、ほか彼らが事件を起こした背景を、北野武を彷彿させる暴力描写と共に描き出す。5月31日、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。

是枝裕和

これえだ・ひろかず/1962年東京都生まれ。TVのドキュメンタリー作品などを手がけた後、95年に『幻の光』で映画監督デビュー。昨年、『そして父になる』がカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、大ヒットした。現在、次回作の準備中。

photo/
Satoko Imazu
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS778号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は778号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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