映画

失われた過去に、いつまでもずっと、とらわれ続ける人々。

BRUTUSCOPE

No. 777(2014.05.01発行)
居住空間学2014

甘美な『とらわれて夏』、残酷な『ブルージャスミン』が公開に。

 現在36歳にして既に2度のアカデミー監督賞ノミネート歴を誇るジェイソン・ライトマンの新作『とらわれて夏』は、脱獄囚の男をかくまうことになったシングルマザーとその息子の一夏の物語だ。初めは怯えながら、食事をこしらえ、家や車の修理もこなすタフで優しい彼を、すぐに受け入れる2人。“父”の不在を埋めるように、2人は彼を慕い、心から愛するようになるが、一方の脱獄囚も彼らとの日々に、自らふいにした“家族”の幸福を見出し始める。もちろん、そんな偽りの暮らしが長く続くはずもないのだが……。
 物語は成長した息子による回想形式で綴られるが、登場人物はみなこの過去の出来事によって人生を狂わされ、いつまでもその愛おしかった日々にとらわれ続ける。取り返しのつかない時間を描くからこそ、この映画は甘美で切なく、観る人の胸を締め付けるのだけれど、じゃあもう少しズームバックして、作品の背景を透かしてみたらどうだろう? 舞台は1987年。東西冷戦下の“大きな物語”がまだ成立した当時は、強い“父”や幸せな“家族”の存在を無邪気に信じることができた最後の時代だ。この映画が描く失われた過去とは、おそらくそのような二重の意味で、もはや取り返しがつかないものなのだ。
 ケイト・ブランシェットがアカデミー主演女優賞を受賞したウディ・アレン最新作『ブルージャスミン』でも、主人公の元実業家夫人が華やかだった過去の日々にすがり続ける。夫が巨額詐欺事件で逮捕され、今や富も名誉もすべて失った彼女が、それでも虚栄で身を飾るその姿はおぞましく壮絶だ。現在と過去の、現実と虚構の見境をなくした彼女を待ち受けるのは、当然のことながら狂気の世界でしかない。いやはや、まるでホラーだ。

©MMXIV Paramount Pictures Corporation and Frank's Pie Company LLC. All Rights Reserved

2人の“ケイト”が主演する、美しい過去に閉じこもった人々の、悲喜こもごもな物語。

『とらわれて夏』

監督:ジェイソン・ライトマン/出演:ケイト・ウィンスレット/離婚して失意の日々を送る母と13歳の息子が、脱獄犯の男と過ごした5日間。ラストでは、そんな過去の日々との感動的な訣別が…。5月1日、TOHOシネマズ シャンテほかで全国順次公開。

Photograph by Jessica Miglio ©2013 Gravier Productions, Inc.

『ブルージャスミン』

監督:ウディ・アレン/出演:ケイト・ブランシェット/財産も家族も失い、庶民的な生活を営む妹の家に身を寄せたジャスミン。しかし、過去の栄華にとらわれた彼女は、次第に精神のバランスを崩していく。悲劇。5月10日、新宿ピカデリーほかで全国公開。

text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS777号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は777号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.777
居住空間学2014(2014.05.01発行)

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