植物と交信するアーティストの、アナザー・グリーン・ワールド。
「ここはもともとガレージだったの」と愉快そうに説明するのは、環境デザイナーにして音響アーティストのマイリース。その元車庫だった建物は扉を外し、オープンエアのリビングにした。外は緑溢れるガーデン。そして、ガーデンの奥にはヴィンテージのエアストリームを設置した。
「コンクリートで固めた空き地だったので、熱がこもって強烈に暑かった!」という元ガレージだが、今では樹木や草花が生い茂り、野菜やハーブは摘み取られるのを待っている。ひんやりとした木陰のもと、小さな池をフナが泳ぎ、カメが静かにあたりを窺っている。
「野ネズミやカマキリが棲みつき、アライグマやハヤブサまでやってくるようになった」と微笑むマイリースだが、入口の扉を押し開けると、外には落ち着いた邸宅が整然と立ち並んでいる。ここはカーサイ・スクエアと呼ばれる、ビヴァリー・ヒルズの南東にある閑静な高級住宅地。その中で人知れず増殖したささやかなバイオシステム。それがマイリースの住まいなのだ。
ファンタジックな緑の小宇宙で、彼女が寝起きする場所はヴィンテージのエアストリーム。「窓越しの緑に囲まれて眠っていると、自分が構築した世界に包まれている、と実感するの」とも。それもそのはず、植生のデザインから搬入、家具の製作から池や内装の施工まで、彼女のハンドメイド。細い腕で木工機械を扱い、体重ほどもある重いセメント袋を引きずりながら、7年前から一人でコツコツ造り上げたという。
肩書は、植物の心を電子音楽で表現するアーティスト。1970年代に行われた、微弱電流を流し、波形の変化でサボテンの気持ちを読み取る実験をご存じだろうか? マイリースの創作活動はいわばその進化形だ。独自に開発したソフトウェアを使い、草花が示す感情の機微を音楽で可聴化する。植物と交信する彼女は、豊穣な「マイ・オーケストラ」の中で暮らしているのである。
- photo/
- Yoko Takahashi
- text/
- Mika Yoshida&David G. Imber
- edit/
- Kazumi Yamamoto
本記事は雑誌BRUTUS777号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は777号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。