映画書籍・読書テレビ

連続ドラマ『ロング・グッドバイ』はこうやって生み出された。

BRUTUSCOPE

No. 776(2014.04.15発行)
一世一代の旅、その先の絶景へ
増沢磐二役は制作陣全員が「彼しかいない」と浅野忠信に白羽の矢を立てた。
ドラマ『ロング・グッドバイ』出演:浅野忠信、綾野剛/私立探偵の増沢磐二は、妻殺しの容疑をかけられ台湾で自殺した親友、原田保の死に疑問を抱き、やがてその悲しい真相に辿り着く  。演出は『外事警察』の堀切園健太郎。4月19日スタート。毎週土曜午後9時〜、NHK総合にて放映。全5回。

主演の浅野忠信ら作り手たちに聞く、傑作ハードボイルドをドラマ化するまで。

 レイモンド・チャンドラーの傑作ハードボイルド小説『ロング・グッドバイ』が連続ドラマになった。舞台は1950年代半ばの東京。当然、登場人物日本人に変更され、物語の背景なども脚色されているが、筋立てはほぼそのままに、原作同様のテーマ  友情や愛、そして「男の生き方とは?」を描き出していく。
 チャンドラーが創造した私立探偵、フィリップ・マーロウは今回のドラマで「増沢磐二」として生まれ変わった。扮するのは連続ドラマ初主演となる浅野忠信。磐二は第1話で「何の見返りも求めず、ただ常に自分が正しいと思う方を選ぶことのできる人間」と形容されるが、そんな真っすぐで嘘のない男性像は、キャリアを通じて妥協なく仕事に取り組んできた彼にうってつけだ。
 脚本はNHK連続テレビ小説『カーネーション』以来2年ぶりにドラマを執筆する渡辺あや。たまたま手にした村上春樹訳『ロング・グッドバイ』に惹かれ、自らドラマ化を望んだ彼女が周囲に話していたのは、「カッコいい男を描きたい」
との思いだったそうだ。音楽は『あまちゃん』の大友良英が手がけている。
「もはや戦後ではない」と言われた50年代半ばの日本で、時代が大きく転換する中、信念を貫き通した男の姿とは? 主演の浅野、制作統括の城谷厚司、プロデューサーの小川真司各氏に聞いた、メイキング・オブ・『ロング・グッドバイ

浅野忠信が連ドラ初主演。なぜ今テレビドラマなのか?

 それにしても、これまでテレビドラマとは距離を置いてきた「映画俳優」、浅野忠信がなぜ今回の出演を決めたのか?
「正直、今さらテレビなんてできないと思っていたんです、最初は。でも40代になり、どうせおじさんになるなら、おじさんにしかないダンディズムを表現したいと思うようになって。役者としてもう一歩先へ進むために、自分の存在をもっと知ってもらいたいという思いもあったんです。脚本を読んだ時、それを実現できるのはこれしかないんじゃないかって。大きなチャンスだと思いました」(浅野
 彼は磐二を通じて、ダンディズムそのものと言っていい、ハードボイルドな男の姿を見せてくれる。
「ハードボイルドといっても、コートを着て、タバコを吸ってというお決まりの姿ではないんです。動物的なエネルギーがあって、常に疑問を持ち、それが解決しないことには前へ進まない。そんなピュアさが大事だと思いました」(浅野

舞台は₅₀年代半ばの東京に。あの時代を描く意義とは?

 舞台を戦後10年近く経った日本に移し替えているが、浅野は「違和感なくあの世界が描かれていた」と振り返る。一つには、見事に作り上げられた衣装や美術のせい。スタイリスト、北村道子が作品のテーマに沿った衣装を用意し、フランク・ロイド・ライトが設計した芦屋のヨドコウ迎賓館で撮影を行うなど、隙のない視覚デザインで当時が再現された。しかし、今「50年代半ば」を描く意義は? 映画『ノルウェイの森』などを手がけてきた小川プロデューサーはこう話す。
「原作も戦争という大きな暴力で傷ついた人たちの悲劇です。そして、時代が大きく変わろうとしていた時期の物語。それは21世紀になって、多くのものが失われつつある今と似ているんです」

豪華なキャスティングは原作を忠実に映像化した結果。

 磐二の親友、保を演じた綾野剛や、事件の核心を握る亜以子に扮した小雪をはじめ、古田新太、冨永愛、滝藤賢一、田口トモロヲ、岩松了、でんでん、吉田鋼太郎、柄本明……とキャスティングは隅々まで手抜かりがない。濃い。実は、これも原作を忠実に映像化した結果だ。
「原作はキャラクタージャンル小説でもある。ほんのちょっとしか出てこない登場人物もよく描けているんです。だから、配役も隅々まで濃いんですね。そういった点も含めて、チャンドラーの良さをちゃんと映像化できたと思います」(小川

カッコよく生きるということを男たちに思い出してもらいたい。

『カーネーション』でも制作統括を務めた城谷プロデューサーは、「観たことのない映像を作るから、聴いたことのない、カッコいい音楽を付けてほしい」と言って、大友良英に音楽を依頼していた。渡辺あやが口にしていたのも、「カッコいい男を描きたい」ということ。
「今、カッコよさを貫くのって大変じゃないですか? でも渡辺さんは言っていたんです。カッコよく生きるということを、特に男たちに思い出してもらいたいって」(城谷)
 ドラマ『ロング・グッドバイ』の底流には「カッコよさ」というキーワードがあるのかもしれない。

【フィリップ・マーロウを演じた名優たち。】

レイモンド・チャンドラーが生み出した魅力溢れる探偵、フィリップ・マーロウはこれまで何度も映像化され、多くの名優によって演じられてきた。代表的なところでは『三つ数えろ』のハンフリー・ボガート、『さらば愛しき女よ』のロバート・ミッチャム、そして1973年映画化された『ロング・グッドバイ』のエリオット・グールドなど。役名は増沢磐二に変わろうと、この役柄を日本人が映画やテレビドラマで演じるのはもちろん初。浅野忠信の名もこの名探偵を演じた俳優の歴史に刻まれることになる。

ロング・グッドバイ
マーロウが登場する長編6作目としてチャンドラーが本作を発表したのは1954年。ハードボイルド小説の枠を超え、その研ぎ澄まされた文体で、文学作品として長く愛されてきた。名台詞の数々も有名だが、さて、ドラマではどう再現されるのか?

本記事は雑誌BRUTUS776号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は776号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.776
一世一代の旅、その先の絶景へ(2014.04.15発行)

関連記事