エンターテインメント

愛を求め、ひたむきに生きる人間を描いた『そこのみにて光輝く』。

BRUTUSCOPE

No. 775(2014.04.01発行)
東京で見る、買う、食べる、101のこと。
呉 美保さんが新作映画について『共通点の多い友達』の友近さんとともに語る。
2006年に公開された『酒井家のしあわせ』で、「映画監督と女優」として出会った呉美保さんと友近さん。今ではすっかり親友関係となり、気になる存在を見つけては「愛のあるツッコミ」を入れる仲だという。ともに"西の人"な2人の言葉は小気味よく、普段はさぞ笑いの絶えない会話を繰り広げていそうだが、本日のお題は呉さんの新作映画について。なので、対談はマジメと笑いを行ったり来たり。
──綾野剛と池脇千鶴が主演を務める『そこのみにて光輝く』は、函館の夏を舞台に「愛を求める人々のひたむきな生」を描いた物語。水商売で一家を養う千夏(池脇)と、仕事も辞めて自暴自棄に生きる男(綾野)が出会い、過酷な日常の中、必死で愛を貫こうとする。
友近 観ました。後半はただただ涙が……。
呉 舞台前の忙しい中ありがとうございます。
友近 試写会のスクリーンの前で号泣(笑)。もう一度、映画館で観たいと思いました。
呉 それは嬉しいです。
友近 キャスティングもむちゃくちゃ良かったです。伊佐山ひろ子さん(池脇の母役)みたいな方が一人でも入ると映画って変わるんですね。あの人は色っぽいなぁ。
呉 生きてきた皺を感じますよね。夏だし、伊佐山さんは裸にムームーみたいな肌の露出が多いだらしない服ばかりで、息子役の菅田将暉さんは目のやり場に困っていましたね。
友近 でも、そういう役やしねぇ(笑)。また池脇さんのカラダがどこまで演出かっていう。30代の、あの役にぴったりな肉の付き方をしていて。ま〜、すごい女優さんですよ。
呉 池脇さんはすごかった。食事の席とかではよくしゃべるしムードメーカーなのに現場では一切話さないんですよ。演出に対しても「はい」とだけ言って淡々とこなして。綾野さんは自分の気持ちをきちんと言葉にする人で、2人の対比が面白かったです。
友近 あの濃厚なラブシーンも呉さんが演出したんですよね……?
呉 はい……。メモ用紙に「千夏のココとココを舐めてください」って書いて綾野さんに渡しました(笑)。撮影中は、池脇さんと綾野さんのカラダの至近距離にカメラのレンズがあるという非常に現実的な光景でした。
友近 はーっ(笑)。
呉 池脇さんも綾野さんも菅田さんも役に入り込んでいて、後半は「この人はこういう人なんだ」と逆に私が教えてもらう感覚に……。
友近 綾野さんの顔も後半になって変わりましたしね。
呉 綾野さんは、職をなくして飲んだくれている男になるために、毎日朝まで飲んでリアルに顔をむくませていたんです。それなのに、後の「家族を持とうと思うんだ」と語るシーンではすごくスッキリした顔になってた。完璧に自分をコントロールしてるんです。
友近 思い入れがね……。ちょうどその頃、池脇さんと仕事で会う機会があったんですが、「いい映画に出会って、次の作品選びが難しくなった」と言ってましたもん。
呉 そんな嬉しい言葉を……。
友近 この物語の人々は、売春したり警察ザタになったり、もっといろいろあるんだけど、根っこが純粋だから受け入れたくなってしまうねんなぁ。
呉 実は、私がこの作品を作ろうと思えたのって友近さんのおかげなんです。一緒に人間観察みたいなことをして何だかんだ話してる
うちに、人間の持つ毒々しいんだけれど愛しい感じを表現してみたくなったんです。
友近 私たちも単に毒づいてるわけじゃないんですよ。こういう作品につながるためにやってるんです(笑)。
呉 私たちの毒には愛がある
友近 でもまぁこんな子供みたいな人が、こんな深い愛を表現するとは思えないですよ。
呉 ほのぼのした映画しか作らなさそうって言われてきたことが悔しかったんです(笑)。
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そこのみにて光輝く

41歳で命を絶った作家・佐藤泰志の長編小説を呉監督が映画化し、生きる目的を失った男と愛を諦めた女、そして底辺で生きる家族の姿を慈愛の眼差しで描いた。主人公の綾野剛とヒロインの池脇千鶴の演技が美しくも哀しい。4月19日、テアトル新宿ほかで全国公開。

友近さんの最新作はザ・ミュージカル。

『アダムス・ファミリー』
ブロードウェイミュージカルの日本初演版。友近さんはオバケではなく人間の母の役。演出:白井晃/出演:橋本さとし、真琴つばさほか。4月7~20日、青山劇場。ほかに名古屋、横浜、大阪公演。

呉 美保
お・みぽ/1977年三重県生まれ。映画監督。大阪芸術大学映像学科卒業。2006年、脚本から手がけた『酒井家のしあわせ』で長編映画監督となる。10年『オカンの嫁入り』で新藤兼人賞金賞受賞。

友近
ともちか/1973年愛媛県生まれ。お笑い芸人。女優としても活躍し、2013年はトロント国際映画祭の観客賞受賞作『地獄でなぜ悪い』でヤクザの組長の妻を好演。14年秋は映画『花宵道中』に出演。

photo/
Shinichiro Fujita
text/
Naoko Yoshida

本記事は雑誌BRUTUS775号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は775号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.775
東京で見る、買う、食べる、101のこと。(2014.04.01発行)

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