エンターテインメント

すべてを失い、どんなに絶望しようと、それでも生きていく。

BRUTUSCOPE

No. 773(2014.03.01発行)
なにしろラジオ好きなもので②

『それでも夜は明ける』『オール・イズ・ロスト』……生き抜く男の物語。

 時節柄どうしてもアカデミー賞絡みの話題になるけれど、今年の作品賞候補作には、ある共通のテーマを持つものが多くラインナップされている。『キャプテン・フィリップス』『ゼロ・グラビティ』『それでも夜は明ける』『ダラス・バイヤーズクラブ』……この4作品はどれも“いきなりとんでもない事態に巻き込まれるけどへこたれない物語”、言い換えれば“絶望を生き抜く物語”だ。
 中でも受賞が有力視されている『それでも夜は明ける』は、自由の身でありながら拉致され、奴隷としての生活を強いられた男の12年間を描き出していく。舞台は南北戦争前のアメリカ。とはいえ、突然それまで手にしていたものを失い、不安や恐怖が渦巻く世界に放り込まれる男の姿は、遠い過去の話だといって見過ごせない、切迫感と緊張感を観ている人に与える。そう。だってこの状況、僕たちが今まさに直面している世の中のありさまとそっくりなんだから。9.11、リーマンショック、そして数々の自然災害を経て、瞬く間に確かなものを見失ってしまったこの世界と。
 同様に過酷な生を描く作品の一つが『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』だが、これはそのあまりにストイックな作風のせいか、アカデミー賞に敬遠されてしまった不遇の一作だ。登場人物はたった一人。台詞はゼロ。最後まで素性の明かされない、「Our Man(我らの男)」とだけクレジットされた主人公が、インド洋の単独航海中、ヨットから何からすべてを失うストーリーである。希望すらなくした男が、それでも生き延びようとするのは、ただ単に死にたくないから。その最も根源的な部分を、最もシンプルなスタイルゆえに剥き出しにすることができた、近年で最も大胆な作品と言っていいだろう。これには震えた。

©2013 All Is Lost LLC

アカデミー賞にノミネートされても、されなくても、どちらも観る価値のある2作品。

『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』

監督:J・C・チャンダー/出演:ロバート・レッドフォード/現在77歳のロバート・レッドフォードが大海原を生き抜く主人公を演じた、彼いわく「すごいをしてすごい目に遭う」男のドラマ。3月14日、TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテほかで全国公開。

©2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

それでも夜は明ける

監督:スティーヴ・マックィーン/出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー/1841年、ワシントンDCで突如誘拐された自由黒人、ソロモン・ノーサップの実話を映画化。その壮絶な闘い。3月7日、TOHOシネマズみゆき座ほかで全国順次公開。

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Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS773号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は773号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.773
なにしろラジオ好きなもので②(2014.03.01発行)

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