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役者が快楽を得るための最も過激な方法―肉体改造について。

BRUTUSCOPE

No. 772(2014.02.15発行)
日本一の「お取り寄せ」最終案内

第86回アカデミー賞を争うマシュー・マコノヒーとクリスチャン・ベイルの演技術。

 以前、日本の某大物女優に「芝居の快楽とは?」という質問をした時のこと。彼女はいかにも大物女優らしい笑みを浮かべ、いかにも大物女優らしく紅茶をズズズとすすった後、いかにも大物女優らしく毅然と答えた。あなた、それは“我を忘れる”ということよ  。確かに演者にとって、自分ではない何かに変貌し、忘我の境地へと辿り着く瞬間は、何にも代えがたい至福の時に違いない。
 役者が我を忘れるための、最も過激で、最も困難な方法が、肉体改造だ。中でも体重の増減は、『レイジング・ブル』のロバート・デ・ニーロを例に出すまでもなく、数々の俳優がここぞという時に採用してきた秘技中の秘技である。近年、名優としての評価著しいマシュー・マコノヒーは、主演作『ダラス・バイヤーズクラブ』で大幅な減量に挑み、国や製薬会社と闘った実在のエイズ患者を、ポキリと折れてしまいそうな痩身で演じ切った。落とした体重はなんと約21キロ。本作では共演のジャレッド・レトも18キロの減量を敢行し、トランスセクシュアルのエイズ患者という難役に扮している。共に崇高とすら言いたくなる芝居だ。
 一方、かつて『マシニスト』で30キロの減量を行ったクリスチャン・ベイルは、70年代に実際に起きた汚職スキャンダルを取材した『アメリカン・ハッスル』で、一九分けの中年詐欺師をたっぷりとした胴まわりで演じている。ここでの彼の肉体改造は多分にコスプレ的だが、その悲哀に満ちたファニーな演技は、20キロの増量という入念な役作りから生み落とされたものだ。
 マコノヒーもベイルも(それからレトも)、それぞれアカデミー賞主演男優賞(助演男優賞)にノミネートされている。授賞式は日本時間の3月3日午前。さて、肉体改造の最終的な勝者は?

見どころは肉体改造だけじゃない。作品だってなかなかな、実話を基にした2作品。

『アメリカン・ハッスル』

監督:デヴィッド・O・ラッセル/出演:クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス/大物議員の汚職追及のため、FBIの手先となっておとり捜査に協力した詐欺師たちのドタバタ。1970年代を舞台にした騙し合いはさながら現代版『スティング』か。全国公開中。

『ダラス・バイヤーズクラブ』

監督:ジャン・マルク=ヴァレ/出演:マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト/突如余命30日を宣告されたロン。国内未承認の薬に頼る彼に、国や製薬会社が圧力をかけ…。2月22日、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。

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Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS772号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は772号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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