書籍・読書

ついでにデュシャンの小話ついてでも…。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 771(2014.02.01発行)
コレクター

 コレクター特集のSPと連動して本欄登場はデュシャンです。コメント忘れの書籍がSPに一冊あり、意図的にではなくデュシャン的偶然なのですが、この偶然=チャンスをどこでフォローしようかと考え、あ、本欄があったと気づいた次第。
 忘れていたのは、中央上部に見えている緑色本で、表紙にドットで『THE BRIDE STRIPPED BARE BY her BACHELORS EVEN』、とタイトルが穿たれた、いわゆる〈大ガラス〉のためにデュシャンが書き記したメモ集=グリーン・ボックスの初めての英訳書籍です。
 紙片にランダムに書かれた、なんとも意味不明なメモを、みごとに活字+図版の〈タイポグラフィック・ヴァージョン〉という書籍の形=グリーン・ブックに落とし込んだのが、イギリスのポップ・アートを牽引したリチャード・ハミルトンです。ハミルトンはこの後、〈大ガラス〉のレプリカを1966年のテートのデュシャン展のためにタイトルの次に〈アゲイン〉と名付けて制作します。本物のガラスにひびが入り、搬出不可だったからです。制作をときに手伝いつつ、見守っていたのが、ブライアン・フェリー(ロキシー・ミュージック)で、彼も自分のソロ・アルバムにこのタイトルを借用することになります。しかし、それにしても、これまで訳されてきた「彼女の独身者たちに裸にされた花嫁、さえも」は、実に訳がわからない。いやわからなくていい作品ではありますが、「さえも」は、「裸にされてさえ」と繰り返したい。 
 もっともはやく翻訳されたデュシャン本は1968年刊行タイム・ライフ社の〈巨匠の世界〉シリーズの一冊としてですが、このときの、まだかけだしの執筆者カルヴィン・トムキンズによる発掘インタビュー『Marcel Duchamp/The Afternoon Interviews』(2013)によると、タイム・ライフ社のだれも、企画した時点で本人が生きているとは知らなかったとのこと。広告を打ってしまったから、後戻りできず、トムキンズがふんばらざるをえなかったという裏話が……。というのも、タイム・ライフ社の巨匠シリーズは、すでに亡くなっていることが前提なので、珍しい失態。

たきもと・まこと/新春仕事として、『アンソニー・マン・フィルム・コレクション』DVDBOX解説を担当。

本記事は雑誌BRUTUS771号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は771号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.771
コレクター(2014.02.01発行)

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