エンターテインメント

映画的な興奮と社会的な視点を兼ね備えた作品作りを目指して。

BRUTUSCOPE

No. 771(2014.02.01発行)
コレクター
コンスタントに作品を発表してきた両監督。「このまま撮り続けましょう」(ポン)
ポン・ジュノ監督と『許されざる者』の李相日監督が膝を突き合わせて話したのは?
 2014年、地球は氷河期を迎え、人々は永久機関を持つ列車“スノーピアサー”に乗り込んだ。それから17年後。生き残った全人類を乗せた列車の中で、虐げられた貧困層による反乱が起きる。ポン・ジュノ監督による『スノーピアサー』は、閉ざされた列車という空間の内部で、人類が生き残りを懸けて凄惨な闘いを繰り広げる、まあ大袈裟に聞こえるかもしれないけど、数年に1本あるかどうかの優れたSFアクションだ。来日中のポン監督のもとを、10年来の知人で、お互いの動向をチェックし合う仲の李相日監督が訪ねた。

ポン・ジュノ 李監督の新作『許されざる者』は、スタンディングオベーションを送りたくなるような作品でした。そもそもクリント・イーストウッドの作品をリメイクするなんて、並大抵の勇気や度胸じゃできません。以前、日本のプロデューサーが僕を訪ねてきて、「黒澤明監督の作品をリメイクしないか?」と言ったことがあるんです。3秒で逃げ出しましたけどね(笑)。その点、李監督の『許されざる者』は、西部劇時代劇のボーダーを越えた新しい映画で……。
李相日 ポン監督、今日は『スノーピアサー』の対談ですから(笑)。『スノーピアサー』こそ本当に素晴らしい作品でした。まるで世界の縮図を列車の中に再現したような映画で、監督がまた先へ先へと進んでいったような印象を抱きます。たぶん階級間の闘争のストーリーが、監督にとって決して未来の話ではないという実感があるんでしょうね。
ポン 確かに現実を投影している部分もあります。身近なところでは、飛行機でもエコノミークラスに乗ると、CAをかき分けなければビジネスクラスのトイレへ行けないじゃないですか。また、どの国の世情を見ても、激しい格差に悩まされています。SF映画の魅力は、未来を語っているようで、実は今現在の問題を扱うことができる点ですね。
李 一方、ポン監督の映画には圧倒的なディテールの面白さがあります。例えば『母なる証明』でも、母親が鍼を打つというディテールを入れることで、監督はただ母が子供のために必死になるという物語を乗り越えていました。
ポン ディテールにこだわるのは、たぶん変態の特徴なんだと思います(笑)。今回は狭い空間に人間がひしめき合い、肌と肌が触れ合う中で、人間の肉体が破壊されていくという描写をふんだんに入れました。そのことで、観客にも肉体的な痛みを感じてもらいたかったんです。『許されざる者』を観ても、肉体的な痛みをすごく感じますね。
李 あの作品では、人はしぶとくて強い部分もあるけど、あっけなく命を奪われることもあるという、そんなどっちに転ぶかわからない命のあっけなさを描きたかったんです。今、日本で暮らしていると、そういった感覚が失われていることに気づきます。だから映画を通して、肉体が傷つけられたり、命がなくなったりすることがどういうことなのか、感じ取ってもらいたかったんです。自分でも感じ取りたいと思って。
ポン あの作品が単なるリメイクでないのは、監督に撮るべき理由があったからでしょうね。
李 『スノーピアサー』には、反乱を起こした人々が、一つ一つ前方の車両の扉をぶち破っていく映画的興奮もありました。
ポン ステージを一つずつクリアしていくような、ちょっとしたゲーム感覚があるかもしれません。今回の作品は、フランスの原作マンガの基本的な設定だけを借りてきて、あとはほぼ作り替えているんです。地球が氷河期を迎え、生存者だけが列車に乗っているという設定は原作のもの。それ以外のキャラクターやエピソードは自分で付け加えました。気を使ったのは、前方へ突破していく姿をいかに激しく描けるかということです。列車は一直線なので、迂回することができず、ただ前へ進むしかない。そうやって前へ進む中で、おぞましい衝突が起きる瞬間を描きたかったんです。
李 そのような映画的興奮を作り出せる映画監督としてのセンスと、現実の格差社会を反映させるような社会的な視点が、完璧なバランスで成り立っている監督はそういません。そのバランス感覚、どっかで売ってないかなと思うくらい(笑)。
ポン 韓国のコンビニには売ってるんですけどね(笑)。黒沢清監督に言わせると“70年代アメリカ映画の思い出”となるのかもしれませんが、そんな映画を目指している点は僕と李監督の共通点だと思います。李監督の映画をずっと観てきて思うのは、きっとお互いに、力強いメッセージのある映画、厚みのある映画、物語が巧みに組み立てられた映画、正攻法で演出された映画が好きなんです。だから、『悪人』や『許されざる者
を観るとうれしくなるんですね。
李 いや、僕は非常にバランスが悪いですけど(笑)。
ポン 70年代アメリカでは、『ゴッドファーザー』のような映画が興行成績で1位を獲得していました。日本でも70年代頃までは黒澤明監督の作品がヒットしていましたよね。
李 今村昌平監督の『復讐するは我にあり』にお客さんが入っていた時代もありました。
ポン 今は作品性と興行性の2つを担うような作品の居場所が狭くなってきていますね。低予算のプライベートな映画と、超大作なんだけどちょっと粗があるような映画と、その二極化が目立ってきていて。そんな中、李監督には連帯感を覚えます。僕と違うのは李監督がハンサムだという点で……。
李 通訳さん、そこ訳さなくていいですから。
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李 相日

リ・サンイル/1974年新潟県生まれ。2006年『フラガール』が多くの映画賞を獲得。08年、吉田修一の原作を映画化した『悪人』も高く評価された。クリント・イーストウッドの同名作を渡辺謙主演で再生した『許されざる者』はDVD発売中。

スノーピアサー

監督:ポン・ジュノ/出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ/『アベンジャーズ』のクリス・エヴァンスや、ティルダ・スウィントンらオスカー俳優を多数起用して、鬼才ポン・ジュノが作り上げたディストピア。2月7日、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED

photo/
Shinichiro Fujita
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS771号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は771号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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