雑貨・プロダクト

辻 和美/factory zoomer

ガラスで日用品を作ることは。

No. 770(2014.01.11発行)
続・尊敬できる日用品
高温のガラス塊に濡れた新聞紙を当てて成形。
工房で。この日は辻さんと2名のスタッフが作業。「ウチが大切にしているのは底作り。角をしっかり決めるよう、うるさく言う」。
形・大きさと柄の組み合わせを示す一覧表。
ガラスを溶かす溶解炉は24時間365日稼働。
人気の《めんちょこ》シリーズ。
サンプル型。
成形する際(7)に当てて、大きさや形を揃える。

安心して手渡せる、いちばん普通の美しさ。

 辻和美さんが作るのは、洗う時の手が気持ちいいガラスだ。
「ざぶざぶ洗っておおらかに
使ってほしい。カフェのグラスみたいに、ヘビーに使うことで経年変化していく感じも、嫌いじゃないですね」
 金沢市内にあるアトリエ〈ファクトリー・ズーマー〉では、辻さんと4人のスタッフが制作に関わっている。行われているのは宙吹き。ベンチと呼ばれる作業台を使って中空で吹き上げる、吹きガラスの一種である。基本的には体で覚えた感覚で吹き、形作るのだが、例えばコップは、“サンプル型”と呼ぶ型を当てながら大きさや形を揃えていく。
 型を用いる理由は、ファクトリー・ズーマーの定番「スタンダードシリーズ」が、約35アイテム、300種類以上も存在するからだ。《普通のコップ》と名づけたシンプルなグラスだけでも、細、中、小、短、大、特大と6種類。しかもそれぞれに柄違いまで。ちなみに、この「柄」
も辻さんの特徴。大学でグラフィックデザインを学んでいた辻さんは、ガラス作家として独立した際、「器の形と大きさを決め、水玉や線などの柄と組み合わせる」やり方を考えた。で、この300種をマトリックス状の表にして、誰でも注文できるようHPに掲載しているのだ。
「いろいろ選べる方が楽しいし、気に入ったものを買い足したり、割れても同じものを買えたりできるようにしたかった。定番なら“今はお金がないけど、来年買えるかも”って安心できる。そういう気持ちは満たしてあげたいんです。作り方は手工芸ですが、工業製品的なアイデアを取り入れている感じですね」
 実は辻さん、独立当初から、現代美術とクラフトという2つのフィールドでガラス制作を続けている。
「最初の頃、現代美術では、日常のひずみみたいなものを表現していました。でも、表現より解決する次元へ踏み込んでいかなくちゃと思い始めたんです。そんな時、自分にはコップを作る技術があることに気づいた。朝、好きなコップで一杯の水を飲める幸せが、ひずんだ日常を解決する小さな手がかりになるんじゃないかって。日用品にはその力があるし、一個一個丁寧に作った日用品が、人の暮らしをほんの少し幸せにする手助けになればとも思います。だから、スタンダードを作り続けたい。おばあさんになっても作るつもりです」

辻 和美

Kazumi Tsuji

1964年石川県生まれ。グラフィックデザインを学んだ後、渡米しガラスを学ぶ。99年に工房〈factory zoomer〉設立。扱いは工房のほか〈ARTS&SCIENCE〉〈くるみの木〉〈夏椿〉など。http://www.factory-zoomer.com

photo/
Toru Kometani
text/
Masae Wako

本記事は雑誌BRUTUS770号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は770号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

No.770
続・尊敬できる日用品(2014.01.11発行)

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