エンターテインメント

今、気になるミヒャエル・エンデのこと。

BRUTUSCOPE

No. 769(2013.12.16発行)
この本があれば、人生だいたい大丈夫。
菊池亜希子(左)、松浦弥太郎(右)
菊池亜希子さんが持参した私物の『モモ』は子供の頃から読み続けてきたもので、書き込みいっぱいの付箋だらけ。

傑作ファンタジー物語が40年の時を超えて伝えるもの。

人間から時間を奪う「時間どろぼう」から町の人々を守る少女モモが活躍する名作『モモ』。その作者の実像に迫る『ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと』刊行を記念し、大ファンであり友人の2人が「冬のこたつ読書」対談!

松浦弥太郎 
あっこちゃんの持ってきた『モモ』の付箋の量、すごい
菊池亜希子 
いやあ、どこに感銘を受けたのか丸わかりで恥ずかしいです(笑)。普段から目につくところに置いているんですよ。たまに開いて読むと、日々の生活の中で腑に落ちなかったことが、スッと胸に落ちたりする。初めて読んだのは小学3年生の頃なんですけど。
松浦 
えっ、かなり早熟だね。僕は初めて読んだのが中学生で、当時は読破できなかった。その後、20歳くらいの時と、本屋を始めた頃に読み直しました。
菊池 
もう夢中になって読み切りました。当時、児童館の近所に、古いマネキン人形とかが置いてある怖い物置小屋があったんですけど、そこにドキドキしながら真実を探りに行ってた冒険の記憶とこの本がなぜかリンクしているんです。
松浦 
モモ』ってちょっと怖いですよね? 僕、子供の頃からすごい怖がりで、道を歩いていても、木がこっちを見ているとか、月がついてくるとか、何でも怖かった。そういう、想像力がどこまでも働きすぎる感じが『モモ』にもある。
菊池 
私も入口は一緒なんですけど、私の場合は「怖いから行ってみる」。通学路でも、同級生たちが通りたがらないところをあえて一人で帰ったり。好奇心なんですよね。
松浦 
なるほど、「ドキドキ」も、「ワクワク」も根本は同じものかもね。僕は絵を描くのも好きだった。怖いものを空想して描いたり。架空の地図を描いて、その中の世界と現実を自由に行ったり来たり。『はてしない物語』みたいですけど。今でも空想するのがすごく好きですね。
菊池 
空想癖は私も「基本」です。『モモ』の中に、「時間という音楽にずっと耳を澄ませる」というくだりがありますよね。私も、普段の生活の中でボーッとする時間がたくさんあるんですけど、でもそれは自分にとっては無駄な時間じゃないんです。
松浦 
まさに『モモ』のテーマでもある「時間とは何か」という話ですね。でも「時間」を考えることって、普通はしないでしょう。誰でも時計を持っていて、読み方も知っているけど、「時間という存在」については深く考えたりしない。考えだすときりがない、突き当たりがないから、これも何だか怖くなるようなところがある。
菊池 
不思議ですよね。『モモ』の中で、道路掃除夫のベッポの「つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ」というセリフがありますけど、私にも「今」しかないという感覚があって。将来の夢は? とか、10年後にどうするとか聞かれても、ぜんぜんピンときたことがないんです。
松浦 
なるほど。時間といえば、現代はあらゆる人が「時間の奪い合い」をしている時代ですよね。
菊池 
そうですね。みんなが忙しくて自分の時間を守りたいから、他人が自分に対する時間を割いてくれないことへの不満を持っていたり。でも、私は友人と遊んでいて、家に帰って書くべき原稿があったとしても、心の中に「まだこの人と一緒にいたい」という自分がいたら、そちらを優先したい。わがままと思われるかもしれないけど、自分を犠牲にすることで「他人のために時間を割いてあげているんだ」とは思いたくないんです。
松浦 
僕もそう。どうしても書きたくない時は書かない。あんまり言うとマズいけど(笑)、でもなぜかそちらの方が正しいと思う。というのも、魔法みたいなことが起きて「何とかなる」から。たとえ失敗しても、何とかなる。あの時、失敗したからこそこんなことができたんだとか。結果論の言い訳に聞こえるかもしれないけど、本当にそんなことばかり。「時間」には終わりがないから、勝ち負けも失敗も成功もないんだ、すべて結局大丈夫なんだ、とすごく楽になれる瞬間があったりする。
菊池 
それはもう『モモ』に出てくるマイスター・ホラが語る「星の時間」ですよ。そういうハッとするような素晴らしい瞬間が、人間にはたまに訪れる。
松浦 
そうだね。実は、そういう瞬間はまったく珍しくない、普通のことなんだよね。
菊池 
みんなが普通に持っていて、それに気づけるかどうか。エンデの言葉って、どれも「当たり前」なんですよね。自分にとって基本的な人生の価値観、何が大事なのかということを、ここから教えてもらった。読むたびに「今の自分」を作ってきたものがここにある、という気がします。
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『ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと』

池内紀、小林エリカ、子安美知子ほか/『モモ』『はてしない物語』など20世紀を代表するファンタジー物語の傑作を著したミヒャエル・エンデ。「時間」や「お金」などの概念を根源的なレベルから捉え直し、読者を異世界へと導く作家のバイオグラフィと作品ガイド、貴重な自筆画も収録したビジュアル豊富な入門書。とんぼの本(新潮社)/1,680円。

菊池亜希子

きくち・あきこ/1982年岐阜県生まれ。女優、モデル。ファッション誌でモデルとして活躍する一方で、独特の存在感で女優としても注目を集める。主演映画に『よだかのほし』。自ら責任編集を手がける『菊池亜希子ムック マッシュ vol.4』(小学館)が発売中。

松浦弥太郎

まつうら・やたろう/1965年東京都生まれ。『暮しの手帖編集長、〈COW BOOKS〉代表、文筆家。18歳で渡米。96年に帰国後、2002年〈COW BOOKS〉開業。著書多数。近著に、『もし僕がいま25歳なら、こんな50のやりたいことがある。』(講談社)。

photo/
Koh Akazawa
text/
Kosuke Ide

本記事は雑誌BRUTUS769号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は769号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.769
この本があれば、人生だいたい大丈夫。(2013.12.16発行)

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