エンターテインメント

一冊に込められた、編集者の魂。

自分史上最高ブルータス #4松浦弥太郎 編集者

No. 494(2002.02.01発行)
もう本なんか読まない⁉︎
No.494 2002年 2/1号 『BRUTUS』 特集「もう本なんか読まない!?」

「選書に少し時間をください、印象深い特集が多すぎて」。そう言って、じっくりバックナンバーを読み返してくれた松浦弥太郎さん。「本のプロ」が選んだ最高の一冊は、どこまでも深い読書への愛が詰まった特集でした。

「本好きにとってはものすごくわくわくする仕掛けですよね」

 中学生くらいの頃から憧れだったBRUTUS。印象的な特集はたくさんあって、その中から「最高」を選ぶのはすごくむつかしかった。この機会にバックナンバーを取り寄せたり、実家に帰って読み返したりして選んだ一冊は2002年2月1日号「もう本なんか読まない!?」特集。これはまず表紙が秀逸で、通常通りBRUTUSのロゴや特集タイトルが入っているのですが、そこに文字の修正をする赤字やイラスト配置の手書き指示、色の指定をするためのチップまで貼ってある。つまり表紙を作る途中の段階なんです。未完成なものを読者に見せるというのは本を作る側にとっては「ご法度」なはずです。それを表紙にしてしまうというアイデアが斬新ですし、同時に本好きの読者にグッとくるのはこういうものなのだなと思いました。さらにこの表紙には続きがあって、ページをめくると、その表紙の完成形が扉に使われているんです。雑誌の表紙がどんなふうに作られているのか、読者はある種バーチャルに体験できる。本好きにとってはものすごくわくわくする仕掛けですよね。
 本編はオールジャンルの本に関する莫大なるコラム集と、本好きの選者によるテーマ別の読書ガイド。合わせて819冊の本を取り上げる情報量は圧巻で、読み応えたっぷり。当時僕はトラックでの移動式本屋をやっていて、たくさん本を読んでいたつもりでしたが、この読書ガイドの選書の幅広さには驚かされて、これをガイドにたくさん新しい本と出会いました。面白いのは18人の選者の氏名が明かされていないことで、紹介されるのは「カフェ店員」や「評論家」といった肩書きだけ。おそらく知名度より「本当に本が好き」ということを大切に選者を立てたのでしょう。「池波正太郎の小説は実は料理本です。」や「タイトルで損をした名著。」といった個性的でマニアックなテーマや切り口が生まれたのもそのおかげだと思います。選者がアノニマスであることで読む側も先入観なくフラットに読めるというのもいい。「本好きが作った、本好きのための特集」という徹底ぶりは、今読み返してもさすがだなと感じます。

「読者に愛ある“蹴り”を入れる雑誌であり続けてほしい」

 この特集が発売された2002年はインターネットの創世記です。アナログかデジタルかと議論され始めたタイミングですから、本当なら「もっと本を読もう!」と言いたくなるとこです。でも、そこであえて「もう本なんか読まない!?」というタイトルをぶつけてくるところがBRUTUSらしくて、そのメッセージの中に編集者魂を感じるのです。思えば若い頃、BRUTUSを読んでいると、ガツンと“蹴り”を入れられているような気持ちに何度もなったものです。「お前はなぜそんな狭い世界で生きているんだ!」と叱咤されているような感じで、新しい世界へ飛び込んでいくきっかっけや勇気を幾度となくもらいました。この特集も僕にとってはその中の一冊です。時代とともに雑誌の立ち位置も変化していますが、それでもBRUTUSには変わらず、僕を含め、読者に愛ある“蹴り”をガツンと入れる雑誌であり続けてほしいなと思っています。

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まつうら・やたろう/エッセイスト、「くらしのきほん」主宰。2005年から「暮しの手帖編集長を9年間務める。2015年にウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げ、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。近著に『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』(祥伝社)、ほか著書多数。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」も営む。小誌2014年9月1日号では『松浦弥太郎の「男の一流品カタログ」』特集も。

Text/Yuriko Kobayashi

本記事は雑誌BRUTUS494号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は494号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.494
もう本なんか読まない⁉︎(2002.02.01発行)

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